実際の社会で使える知識は,教科書の中よりも,むしろ実世界の状況の中に埋め込まれている.本研究の目的は,実世界における発見的学習の状況を,センサ情報から推定し,多様性を萌芽とした知識創造を支援することである.
平成27年度,実世界における学習の質と学習行動の関係性を明らかにするマルチモーダル分析手法を開発・実践し,状況考慮型の学習支援サービスを駆動する核となる知見の導出を行った.これは,平成25年度研究(実世界に内在する情報の構造を捉える研究),平成26年度研究(実世界の中での人の振る舞いを捉える研究)を基盤として発展させた研究である.この研究で,実世界の空間を対象とした情報処理の質が,実世界に対する身体的相互作用,特に,3次元的注意配布行動と関係することを示した.これは,(1)実世界で身体と知的状況が協調すること,(2)学習者の身体を通して外部に表出される行動から,学習者の内部の知的状況を読み解けること,を示す結果である.
この研究により,実世界学習を評価する際には,学習時における3次元的注意配布状況を捉えることで,彼らの学習の進み具合などを把握し,学習活動の状況が,抽象思考(生態系全体への考察など)へ発展する可能性があるか否かを捉える手がかりになることが分かった.この手がかりは,実世界学習に対する実時間支援(体験中におけるモバイル端末による支援など),非実時間支援(事後における固定端末による振り返りの支援など)の両方に有用で,学習者の状況を踏まえた支援サービスを駆動する知識エンジンの核として活用できる.すなわち,以上の研究で,“実世界における学習状況をセンサで計測・理解することによって,「多様性を萌芽とした知識創造」を支援することを可能とする”という,本研究の狙いを達成した. なお,本研究の成果である原著論文は,「情報処理学会論文誌ジャーナル特選論文」として表彰された.
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