本研究においては,弦を有する楽器の演奏情報の測定・記録システムを開発することを目的としている.演奏情報の測定・記録システムを開発することの意義は,優れた演奏者の技術の解明やそれを後世に伝えるという文化的な意義,演奏技術を習得するための支援,音楽鑑賞の手段など,多岐にわたるが,本研究ではこれらのいずれにも寄与できる高精度なシステムを開発することを目指している.具体的には有弦楽器を対象とし,楽器の物理モデルを援用したシステムを開発している. 本研究における測定・記録システムの構成要素は,楽器の振動挙動を測定し記録する機能(センサー機能),物理モデルに基づき演奏情報を推定する機能(物理モデル),および演奏情報を記録する機能であるが,これらのうち,最初の2つの機能について高度化を図ることに主眼を置いて研究を進めてきた. その結果,バイオリン等の小型の弦楽器にも搭載可能な,弦の2次元運動挙動を測定できる小型ピックアップを開発することができた. ピックアップの小型化により,キャリブレーション(センサーが正しい測定値を示すことを検証すること)が難しくなってくるが,今年度は,新しいキャリブレーション方法の採用により,この点についても解決することができた. 本ピックアップは演奏情報の測定システムの構成要素として用いることができるだけでなく,物理モデルの精度を評価する目的にも用いることができる.このため,実際のバイオリンの形状を取り込んだFEMモデルを作成し,物理モデルの検証を進めている.
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