本研究では,大規模分散システムにおける,共有資源の高度な最適化を目標として,分散協調問題解決の基礎技術を発展させるための課題に取り組んできた.人工知能分野におけるマルチエージェントシステムの基本問題である分散制約最適化問題を基礎として,比較的複雑な構造や目的を持つ分散共有資源にかかわる分散最適化問題の分析と定式化および解法を検討した.最終年度においては,実際的な資源割り当て問題についての検討を踏まえ,公平性を伴う問題,大規模問題および動的な問題の解法についてそれぞれ検討を進めた. 前年度に検討した公平性を考慮する問題をもとに,グラフ表現の一般化と近似的な解法の影響について検討した.任意の項数の関数を表現するグラフの場合に解法を拡張した.また,近似による解品質の影響が主に最小の利益となるエージェントに関することを示した. また,大規模な問題,エージェントが多数の状態を持つ問題,実際的な資源量のような連続値を離散化した問題など,網羅的な探索が困難な場合に適用可能な木探索とサンプリングに基づく解法について検討した.サンプリングの理論的な正確さを緩和し,必要な記憶を削減する手法を示し,解品質への影響について分析した.また,木探索におけるサンプリングと枝刈り手法との併用について検討した.木構造と局所探索を用いるサンプリングに基づく解法について,局所的な協調の導入およびサンプリングの並行の可能性を模索した. さらに,動的な環境における資源割り当て手法として,マルコフ性を伴う分散制約最適化問題の解法に含まれる最適化手法をスケーラブルな非厳密解法にした場合の効果と影響について検討した. 前年度までの研究内容と合わせ,分散制約最適化手法の拡張的な領域の問題と解法を中心とする検討から一定の成果と知見を得た.
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