研究課題/領域番号 |
25330275
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研究機関 | 科学警察研究所 |
研究代表者 |
関 陽子 科学警察研究所, 法科学第四部, 部長 (10356157)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 筆跡鑑定 / 知覚情報 / 視線計測 / 法科学 / データべース |
研究実績の概要 |
筆跡鑑定は,鑑定人が目視により抽出した筆跡の特徴を比較して筆者の異同を判断しているが,同じ筆跡を,異なる鑑定人が鑑定した場合に,同じ筆跡であるにもかかわらず,筆者の異同の結果が異なることがあり,現在用いられている筆跡鑑定の手法の客観性や科学性に疑問が持たれている.このため,鑑定人が抽出した筆跡の特徴が筆者識別の目的から見て有効な特徴なのか,その特徴を抽出した根拠は何か,比較結果をどのように評価したのかを明らかにする必要がある.一方,筆跡鑑定結果に客観性を担保するためには,多数の筆者から筆跡を収集して種々の実験を行い,統計手法に基づいた筆者識別手法を開発する必要がある.これらの必要性に対処するため,本研究では,400名程度の筆者から筆跡を収集してデータべースを構築すること,データベースを利用して筆者識別実験を行い統計手法を用いた筆者識別手法を開発すること,鑑定人が筆跡を観察して得た知覚情報をどのように処理しているかを明らかにすることを目的とした.本研究は,筆跡鑑定の信頼性の向上に貢献すると考える. 平成27年度は,筆跡データ追加収集(3名分),画像データ取得,デジタルデータ処理(手作業分)を行い,データ追加分の収集およびデジタルデータ処理を終了させた.デジタルデータを利用して,各筆跡の筆順,筆圧変化,書字速度変化を表示するプログラムを作成した.画像データはページごとのデータ取得を終了し,各文字の切り出しに着手したが,自動切り出しに不具合があり,アルゴリズムを見直している. 視線計測実験は,類似課題の刺激として筆跡のほかに画像を加えて課題を作成して予備実験を行い,本実験実施に際して問題点がないかの確認および準備を行った. 研究成果を国内学会で3報発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成27年度は,筆跡画像データ切り出しおよびデジタルデータ切り出しを終了し,筆跡データべースを完成させることと,視覚情報処理実験実施および実験結果のまとめを行い,研究を終了させる予定であった. しかし,筆跡提供者の筆跡記載方法が当初の想定を超えて多岐にわたったため,デジタルデータ自動切り出しが十分に機能せず,予想以上に手作業が多くなったため,デジタルデータ切り出し以外の作業を中断して,デジタルデータ切り出し作業に注力せざるを得なくなった.これにより,デジタルデータ切り出しは年度内に終了したが,その他の作業は実施できず,筆跡データべースの完成が不可能となった. 視線計測実験については,データべース作業を優先したため,実験は実施できなかった.平成26年度に実施した予備実験結果から,刺激の難易度をあげ,刺激の種類も筆跡以外のものを加えたほうがよいと考え,刺激を作成し直した.被験者2名で予備実験を行い,本実験実施について確認および準備を行ったが,年度内に実験を実施するための時間が取れなかったことと,被験者となる筆跡鑑定人が確保できなかったため,27年度中の実験の実施を見送った. 研究成果の公表については,27年度中はデータ処理作業を優先したため,国内学会において3件の発表を行ったにとどまった. 本研究は平成27年度中に終了予定であったが,以上の状況により,研究が平成27年度中に終了しなかったため,研究期間を1年延長し,平成28年度に研究を終了させることとした.
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今後の研究の推進方策 |
筆跡画像データについては,自動切り出しのアルゴリズムの見直しおよび,画像データの圧縮について検討し,画像データべースを完成させ,データの検索および表示が円滑に行えるようにする. 筆跡デジタルデータについては,筆順,筆圧変化,書字速度変化の情報の表示がより効果的に行えるよう見直しを行う. 視線計測実験については,27年度中に行った予備実験結果をもとに実験を実施し,結果をまとめる. データべース構築および視線計測実験について,国内外の学会に参加して結果の公表および情報収集を行うとともに,論文投稿を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
筆跡のデジタルデータ切り出しの手作業が予想以上に多かったため,平成27年度はデータ処理に注力した.このため,予定していた視線計測実験ができなかった.視線計測実験では,一般人を被験者にしての実験も行うため,業務委託により被験者を募集する予定であったが,実験が実施できなかったので,被験者募集費用を使用しなかった.また,データ処理終了後に業務委託によりデータべース構築および整備を予定していたが,データ処理が終了しなかったため,データべース構築関係の業務委託費用も使用しなかった.さらに,研究の遅れのため,研究成果の公表ができず,成果公表関係の費用も使用できなかった.
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次年度使用額の使用計画 |
データベース構築関係および被験者募集の2種類の業務委託費用に使用する.具体的には,画像切り出し作業の効率化をはかり,画像データべースを完成させたのち,業務委託により,画像データとデジタルデータを利用した筆跡データべースを構築し,筆跡の検索と閲覧がように行えるようにする.また,業務委託を利用して一般人から被験者を募集し,視線計測実験を行い,実験データをまとめる. 以上の成果を,国内外での学会発表(旅費及び学会参加費用に使用する)と論文投稿(論文投稿費用および英文校閲費用に使用する)により研究成果公表を実現させる.
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