研究概要 |
初年度であるH25年度は, エージェント間相関を有する社会システムとして, 我が国の大卒労働市場を選び, エージェント(求職者, 学生) 間の相互作用を含むミニマルな数理モデルとして, 既に我々によって提案されていた数理モデル (H. Chen and J. Inoue. Evolutionary and Institutional Economics Review, Vol. 10, No. 1, pp. 55-80 (2013))をカイラル・ポッツ表現, すなわち, イジングスピンを多値に拡張した表現によって改良し, エージェント間の相互作用が一様であるとした場合の相転移描象を「内定率」を介して解析的に明らかにすることができた. さらに, 単なる数理モデルの解析にとどまらず, 我が国の大卒就職活動の実情に即したアプローチも開始した. 具体的には, 求職支援サイトから回収される複数項目からなる「適性検査」の結果を, 各エージェント固有の「特徴ベクトル」とみなし, このベクトル間の類似性を定量評価・議論することで, エージェント間のネットワークを推定する理論的フレームワークの定式化を行った. また, 学生の特徴ベクトルを「入力」, 当該学生の「採用」「不採用」を入力ベクトルに対する「出力」とみなすことで, 各企業の人材獲得戦略の「重みベクトル」を推定するフレームワークを構築し, 人工データに対し, その有効性を示した. なお, この特徴ベクトルからの重みベクトルの推定は, (線形)パーセプトロンの学習とみなすこともでき, また, 特徴ベクトルがゼロ成分を多く有する「スパース」な場合, 圧縮センシングにおける「辞書」の学習とみなすこともできる. 今後はこうした異なる分野課題を横断する側面を深めるとともに, 次年度以降は実データでの検証に入る予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに得られていたいくつかの関連課題が学術論文として出版され, 今年度から取り組んだ課題に関しては, この分野の主要な国際会議をペースメーターとして順調に対外発表できている. これらのいくつかは次年度以降, 逐次, 学術論文としてまとめていきたい.
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