各企業の資金源として株式発行による直接金融の役割は,資本主義社会において非常に重要である.しかし特に日本においてはリスクを恐れるあまり,投資家人口は低い.リスクを推定する手立ては統計学であり,その制御や低減法は,金融工学におけるポートフォリオ理論が代表的である.
しかしこれまでのポートフォリオ理論は,ヒストリカルデータに基づく移動平均や標準偏差といった線形統計量の枠組みに終始するため,非線形な複雑システムたる金融市場への実用について疑問の余地があった.そこで本研究では,非線形予測モデルを導入することで,既存のポートフォリオ理論の予測能力を向上させ,予測誤差をリスクと捉えることで,新しい非線形ポートフォリオモデルを構築した.なおこの予測誤差には,2乗収益率(ボラティリティ)と同様の時間記憶構造を持つ事を発見し,多変量GARCHモデルも融合することで,非線形予測によってリターンのみならずリスクも予測できるポートフォリオモデルを実現した.これらの予測精度が高まるほど,投資銘柄を適切にアロケーションできるため,リスク分散効果を向上させることができた.
さらに,金融分析手法としてテクニカル分析も代表的である.これは世界に先駆けて江戸時代の米相場から誕生した日本文化にも関わらず,特に日本の金融業界ではファンダメンタルズ分析の方が主流である.これは金融業界が文系傾向にあることに起因する.そこでテクニカル分析において,理系のセンスを強化すべく予測理論や集団学習など機械学習技法を導入することで,新しいテクニカル分析を開発している.さらにその妥当性を科学的に検証できることが極めて重要であるため,その一連の研究テーマを「Evidence Based Technical Analysis」と称し,次年度からの新規採択課題「機械学習を駆使した金融テクニカル分析の科学的妥当性の検証」へと発展させる.
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