研究課題/領域番号 |
25330304
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
金子 正秀 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (90262039)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 知能ロボティックス / 自律移動 / ユーザインタフェース / 人工知能 / 画像・音声等認識 |
研究実績の概要 |
同行者との位置関係を柔軟に変化させながら自律移動を行うロボットを実現するために、下記の研究を行った。 (1)手つなぎポテンシャルによる同行者との位置関係の制御 : ロボットが仮想的に人と手をつないで同行移動することを目的とした手つなぎポテンシャルについて、引き続き研究を進めた。同行者とロボットとの位置関係としては、手をつなぐことができる距離を基準として、同行者の属性や周囲の状況に応じて最適な距離と角度を選択する。シミュレーションによって、対向歩行者が接近する前に当該歩行者が通行可能な空間を用意し、接近時には並走・縦走の切替えによって衝突回避が可能であることを確認した。また、静止障害物に対する回避動作と比較した時に、十分な余裕を持って回避が行われていることを確認した。 (2)影ポテンシャル場法による同行者との位置関係の制御 : 従来のポテンシャル場法では、ロボットと障害物との距離のみを考慮し、動的障害物の移動方向は考慮されていない。この問題を解決するために、距離と移動方向の双方を考慮した「光源と影との関係に基づく影ポテンシャル場法」を考案した。動的障害物は太陽として定義され、太陽は、進行方向に位置する人物(ロボットの同行者)の背後に影を作る。太陽からの光の到達距離を予め決めておくことにより、動的障害物による影響が及ぶ範囲を限定できる。ロボットは、太陽によって同行者の周囲にできる影領域に向かって動くように制御される。これにより、動的障害物との衝突を安全に避けることが可能となる。複数人のグループに対しては、複数人に外接する仮想的なマクロな太陽を設定する。シミュレーション実験により、本方法の有用性を明らかにした。 (3)死角領域への対処 : 死角領域の存在を前提として、安全を維持しつつ移動時間が最小となるようにロボットの移動経路・速度を制御する方法について考案し、有用性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
同行者との同行形態の制御に関し、従来より提案、検討してきた手つなぎポテンシャル法に加え、光源と影との関係に基づく影ポテンシャル場法を新たに考案し、より柔軟な制御が行えるように図った。複雑環境下でのロボットの同行移動では、周囲の障害物、歩行者、同行者、ロボットの静的な相対的位置関係だけではなく、この位置関係がどの様にどういう速度で変化するかを考慮する必要がある。また、歩行者、同行者について、各々一人ではなく、複数人のグループである場合についても対応できることが必要である。手つなぎポテンシャル法と影ポテンシャル場法を組合せることにより、これらへの対処の実現が期待できる。当初考えていた手つなぎポテンシャル法のみの場合と比べ、影ポテンシャル場法を組合せることによって、より高い機能の実現が可能である。影ポテンシャル場法のアイデアは当初計画にはなかったものであり、この点で当初計画を上回っている。但し、シミュレーションでの検証を行った段階であり、今後、ロボット実機での検証が必要である。この他、混雑度、社会的ポテンシャルに関する検討も行っていく予定である。 上記研究に加えて、同行移動時におけるロボットと同行者との間の自然な会話、身振り動作の実現への適用を考慮して、台詞に含まれる感情表現を伴ったロボット動作の自動生成手法についても検討した。台詞自体は同一であっても、多様性を持ったポジティブ或いはネガティブな動作を自動的に生成できることを確認した。これらは、当初計画にはなかった新たな研究成果である。
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今後の研究の推進方策 |
周囲環境の変化や同行者の属性に応じて同行形態を動的に変化可能な自律移動ロボットの実現に向けて、従来のポテンシャル法の考え方をベースに、手つなぎポテンシャル法、及び、光源と影との関係に基づく影ポテンシャル場法について検討を進めて来ている。今後は、両者の方法を統合し、同行者との柔軟な同行形態を維持しつつ、環境、周囲歩行者との衝突を回避しながら安全に自律移動できるようにしていく。このために、まず、ロボットの移動特性を考慮したシミュレーションを行うことでロボットに実機実装した場合にも有効に動作できるかの確認を行う。歩行者は一定速度で移動すると仮定しているが、より現実的な歩行者の挙動を考慮していく必要がある。次に移動ロボット実機への実装を行い、ユーザから見て自然な同行動作、回避動作を行うことができているかの確認、及び、回避行動が同行者・歩行者に与える心理的影響の評価を行いたい。 より多様な状況への対処の例として、同行者の属性に応じた同行移動、同行者に対して常に同一の側で並走させたい場合に対応するための引力場の偏りの持たせ方、周囲が混雑している場合の挙動のさせ方などに対する検討が挙げられる。今後、これらの要素・状況について検討と実装・確認を行う。これによって、より汎用的な同行移動の制御手法の確立を図る。同行者が1名の場合だけではなく、複数の同行者がいる場合への具体的対応、同行の応用として、複雑環境下での複数人物の移動の案内の実現なども課題とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
電気学会論文誌C、2015年4月号に掲載される論文の掲載料(129,600円:2015年4月に経理処理を実施)を2014年度までの交付金から支払うため、この分を2015年度へ繰り越した。(論文原稿は2014年度に投稿し、2014年度中に既に論文誌への掲載決定の通知を受け取っていた。)この他、旅費として300,000円を予定していたが、約200,000円の支出で済んだ。 残額としては217,721円であるが、この内、129,600円は上記論文掲載料に充当されており、実質的には、旅費の残額約9万円の繰越である。
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次年度使用額の使用計画 |
上記理由により、実質約9万円の残額が発生している。この残額は、現在投稿中の論文が採録となった場合には、その掲載料の一部に使用する予定である。または、学会での成果発表のための旅費の一部として使用することを計画している。
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