研究課題/領域番号 |
25330307
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
大倉 和博 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40252788)
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研究分担者 |
保田 俊行 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60435451)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ロボティックスワーム / 集合知 / 人工進化 |
研究概要 |
アリに代表される社会性生物には,一個体では達成し得ないタスクを仲間と群れをつくることにより成し遂げる能力がある.これは,各個体にはある行動要素として内在してはいるが一個体では発現できず,群れを形成したときに始めて具現化する行動知能の一形態であると言える.本研究では,これを集合知と呼び,ロボットの群れ,すなわちロボティックスワームに対して人工進化を用いてボトムアップ的に構成することを狙う.これにより,従来の群ロボット学研究において,重要あるいは致命的課題であった群れの中の役割分担を明示的に表記せずに,時々刻々と変化する状況の中で役割を適応的に生成可能となる方法論を構築することを目標としている. 本研究課題は,次の3つの課題から構成されるため,それぞれに達成度を評価する.(1)MBEANNの拡張理論の構築:構造進化型人工神経回路網MBEANNはこの分野の規準と見なすことのできるNEATよりも確かに優れた性能を示すものの,その優位度は標準的実装環境において格段に大きくはないことが明らかになってきた.また,超並列計算環境への親和性はMBEANN・NEATともに計算アルゴリズムが複雑なために望ましくはなく,逆に,固定位相構造のリカレント型人工神経回路網の方が単純な計算アルゴリズムになり高い並列度が期待できるため,GPUコンピューティング環境には,こちらの方が適していることが明らかになった.(2)集合知の解析・評価方式の開発:集合知に関する評価・解析方法を新規に開発するにあたり,群れ行動の賢さを解析するために動物行動学における行動連鎖に基づく解析方法を開発した.(3)実機ロボティックスワームによる実験:H25年度は,自律移動ロボットの設計を行い,10台製作した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進化型ロボティックスワームには,計算機環境に適した人工進化形式を採用した制御器の使用が適切と判断し,以下のような構成のもと研究を進めた.(1)進化計算用グリッド環境:並列計算時における並列度はグリッドノード数×コア数程度でそれほど大きく取れないが,各コアが汎用なためオープンソース物理シミュレータ(ODE)を動作させることができる.これらを鑑み,複雑度の高い人工進化アルゴリズムであるMBEANNやNEATを使用した構造進化型人工神経回路網を各ロボットの制御器として搭載させたシミュレーション実験環境を構築した.この環境を用いて2次元トーラス面上における追跡問題を解くことを試み,初期的な成果を得ている.(2)GPUコンピューティング環境:並列計算時における並列度は高く取れるが各コアでは限定的な演算しか行えないため,例えばODEを導入できないなどの制約が数多くつくため,本研究室で開発したGPUコンピューティング環境での進化計算用の小型物理シミュレータを用いて実験環境を構築した.これを用い,協調餌集め問題に取り組み,初期的な成功を得ている.(3)また,集合知を定量的に評価・解析するためにロボティックスワームを重み付き有向複雑ネットワークとみなしてサブグループに分割する手法を新規に開発し,動物行動学の知見を加えた分析法を提案した.(4)新たに10台の小型実機ロボティックスワームを開発した.シミュレーション実験のようにまで十分には成功していないものの,今後改良を加え続けていくことにより,期待している群れ行動を生成させたい.
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今後の研究の推進方策 |
(1)自律ロボットの制御器となる人工神経回路網を進化的に設計するために使用する計算機環境を次に示す2種類を想定して,それぞれに研究を推進する.(A)グリッドコンピューティング環境では,計算アルゴリズムに条件分岐が多く複雑なMBEANNやNEATなどの構造進化型人工神経回路網に対して使用する.対象問題を協調餌集め問題に加え,さらに高度な協調行動生成が必要な追跡問題を取り上げて,その協調的行動生成を試みていく.(B)GPUコンピューティング環境では,計算アルゴリズムに条件分岐が少ない固定位相構造のリカレント型人工神経回路網を使用する.GPUを複数個使用してさらに並列度を上げて人工進化に必要な計算機資源を潤沢に供給して,その有効性を議論していく.(2)集合知の解析・評価方式の開発では,スワームロボティクス分野においてこの未踏な領域へ最初の一歩を踏み入れてきたが,さらにこれを前進させていきたい.現在,注目しているのは行動継続時間の概念を導入することであり,これを中心にロボティックスワームの群れ行動における役割分担の様子を俯瞰的に把握するための新たな分析方法を開発したい.(3)実機ロボティックスワームの製作を追加して行い20台程度の規模にする.そして,生物の群れに典型的に見られる群れ行動が観測されるようにしたい.
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