本研究の目的は数百万個体からなる群れの性質を解明し,それを群ロボットの移動制御に応用することである.まず群れの個体数が増えた時にどのように運動の様相が変わるか=相転移が発生するかを解明する.とくに相転移現象の数理的表現と発生条件を、個体間の近傍ネットワークの時間変化と運動の相互作用の視点から解明する.そして数百万個体からなる大規模群れでの包括的な数値実験を行い,理論を検証する.応用として超多数移動ロボットの制御手法を構築する. 上述の目的に対して本研究では以下を行った. (1)群れの挙動の相転移の現象の解明に対しては,個体数による群れの維持能力の変化と個体間の接続関係が相転換の主たる要因と仮定し,とくに群れの接続関係の変化を巨視的に記述するモデルを開発した.これは群れの中で接続している2個体間の位置と速度に基づき,近い将来の2個体間に最大距離を推定する近似モデルである.このモデルを開発することにより,群れの挙動の予測精度を向上した. (2)実ロボットを考慮すると,ノイズを含んだセンサデータからそれ自身の位置と速度を推定する必要がある.本研究では推定精度を高めるために,群れの個体間で情報共有することを仮定し,他のロボットの推定値をそれ自身の位置と速度の推定に利用する,分散カルマンフィルタフィルタを開発した. (3)超多数の移動ロボット制御法を改善した.キーとなるアイディアは二つある.(A)上述の個体間の最大距離推定モデルを利用し,最大距離が大きくなる個体に対してはより大きな群れ形成力を発生させることより,群れの維持能力を向上した.(B)群れの密度が高いときには,外乱に対する群れの維持能力が低くなる.これを回避するために,群れ形成の相互作用対象ロボット数を限定することにより,群れの密度を下げ,群れの安定性を高めることを実現した.
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