本研究では,人の手指の関節の連動性を考慮した可動領域表現上で人の運動を捉えることで,運動機能の特徴を解明することを目指した.前年H26 年度に,日常生活で不可欠な把持動作を行う場合の手指の一部の関節姿勢は,把持対象の物体のサイズによっては,能動的な可動範囲だけではなく受動的な範囲にまで及ぶことが判明した.そのため,最終年度となるH27 年度には被験者を10名に増やし受動的な関節可動域も併せて計測したうえで,可動領域の共通性や個人差の現れやすい部分などを確認した.また,手の関節同士の連動性ゆえに,例えばある指のとりうる姿勢は残りの手掌部および四指の姿勢により制約を受けるが,実世界に働きかける手の運動機能という観点でその制約が何を意味するかを,関節角度空間ではなく手の作業空間で表現することを試みた.具体的には,まず機能検証を行う指と姿勢を固定する部位を決め,可動領域モデルに固定部位の関節角度情報を与え,機能検証を行う指に属する関節の動きうる範囲を求めた.この範囲内でランダムに関節角度を設定して指先位置を求め,指先の到達しうる範囲(リーチエンベロープ)を点群として提示した.このような関節可動域制約を踏まえた手の作業空間での機能表現を発展させることで,日常生活動作(ADL)が出来るかどうかを判定することも可能であり,手根管症候群など可動領域の制約が生じる疾患を持つ患者の手機能診断などへの応用が期待できる.
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