本研究は、大掛かりな防音工事を必要とせずに現状のままのオープンスペースにおいて、無意味ノイズで会話音声をマスクすることによって、音声やノイズの様々な到来方向といった複雑な空間音響条件を考慮した上で、情報漏えいの防止や個人情報の保護などのスピーチプライバシーを確保する、サウンドマスキングシステムを構築しようとするものである。 国内外を問わず、病院の診察室での診療や受付窓口での問診、薬局窓口での説明、オープンプランオフィスでの打合せ、税務署窓口などの公的機関での相談、学校での学習進路相談、などオープンスペースでのスピーチプライバシー保護が重要視されてきている。 これまで、スピーチプライバシー評価に対応する物理指標として、我々の提案したスペクトル距離、信号対雑音比(SN比)を拡張した概念に基づく明瞭度指数AI、SIIなどが用いられてきたが、これらの物理指標を用いて音声やノイズの様々な到来方向といった複雑な空間音響条件でのスピーチプライバシーをコントロールすることは困難であることが明らかとなった。複雑な空間音響条件でのスピーチプライバシーを保護するための新たな最適な物理指標を見出す必要がある。 また、個人情報保護に注目が集まってから、複雑な空間音響条件のため従来困難であったオープンスペースでのスピーチプライバシー保護の設計要求が生じてきているのが現状である。 以上のような観点から、本研究では、情報漏えい防止や個人情報保護に着目して、音源の様々な到来方向といった複雑な空間音響条件を考慮したスピーチプライバシーを確保するサウンドマスキングシステムを構築することを目的としている。 平成27年度では、複雑な空間音響条件において主観的等価値を用いてスピーチプライバシーをコントロールする方法を検討した。次に、サウンドマスキングシステムを構築し、心理実験をもとに装置の有効性を評価した。
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