本研究は,情動変化による顔表情と生体検査や心理検査の関係性を解明し,顔表情の時系列変化から人間の心理的内部状態を推定する技術を確立することである.以下に各年度の実績概要を示す. 平成26~27年度は,被験者20名(男女各10名)に対して,平常状態,快・不快刺激を与えた状態の表情画像データセットを取得すると共に,唾液アミラーゼ試験によりビデオ視聴時における情動喚起要因の有効性を検証した.また,情動喚起ビデオによる快・不快刺激後の「喜び」表情の表出過程に着目し,顔部位が刻む表出リズムを相互情報量の観点から定量的に解析した. 平成28年度は,ストレスチェックの測定内容(抑うつ・不安,不機嫌・怒り,無気力の3因子)の得点,隠れマルコフモデルの状態数を最適化して得られる表情の表出テンポと表情のリズムの尤度を基に,ベイジアンネットワークを用いて男性モデル,女性モデル,及び全体モデルの3種類のストレス検知モデルを構築した.また,プロトタイプシステムの試作を通してアルゴリズムの洗練化を実施した. 平成29年度は,顔領域(顔全体,顔上部,顔下部)が刻むリズムの相互情報量から表情変化の「自然さ」と「不自然さ」を識別し,かつサッケードによる「注視回数」と「視線をそらす回数」を融合することにより,メンタルヘルスの可視化に向けた可能性を探った.快刺激に対する笑顔の表出形態からメンタルヘルスパターンを,視線の反応形態から注視反応パターンを抽出し,これら2種類の身体反応パターンの同期融合により心理反応メカニズムの定式化を試みた結果,心理的内部状態の推定技術に関して高精度化の見通しを得た.さらに,心理的内部状態推定技術の具体的な応用展開として,運転時における注意散漫状態の検出に適用した結果,運転スタイルや運転負担感受性の違いにより,ドライバ固有な状態推定モデルの構築が可能であることを明らかにした.
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