研究課題/領域番号 |
25330339
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 会津大学 |
研究代表者 |
朱 欣 会津大学, コンピュータ理工学部, 准教授 (70448645)
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研究分担者 |
野呂 眞人 東邦大学, 医学部, 講師 (10366495)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ICD / computer simulation / cardiac modeling |
研究概要 |
目的:生命予後を改善する心筋保護を目的とした、植え込み型除細動器(ICD)の植え込み部位を検討し、これを検証することである。 主な研究内容:(1) 人体モデルを用い、ICD作動時の体内電気伝導様式をシュミレーションし、ICD本体を従来の左前胸部と左腋窩に留置した場合の体内電流伝導様式、及び、除細動を成功させる出力(DFT)と心筋障害を惹起する電位空間差分の体積率を検討した。(2) 実際の体内電気伝導様式を検討する目的で、動物実験において、前胸部と左腋窩領域にICDを挿入し、ICD作動時の心室筋各部位の電位を測定した。(3) 臨床上、ICD植え込み適応患者26名に右室リードは右室心尖部、ICD本体を左腋窩に留置し、従来通り、左前胸部にICD本体が留置された55例を対象として、5Jでの除細動の可否を検討した。 結果:シミュレーション上、除細動可能な電位空間差分の占める体積率は左腋窩の方が高く、除細動閾値は夫々、6.2 vs 9.4J (腋窩 vs 前胸部)であり、心筋障害を惹起する電位空間差分の体積率は前胸部の方が高かった。 動物実験では、前胸に比較して腋窩の方でDFTが低く、シミュレーションの結果が確認された。 臨床上も、左腋窩群では88%, 前胸部群では16%が5Jで心室細動の停止が得られ、腋窩の方がDFTが低く、その結果、心筋障害が少ないことが示唆された。 意義及び重要性:シミュレーション、動物実験、臨床実験の結果によって、ICD本体を左腋窩に留置することで、除細動閾値の低下が得られ、効果的な除細動が可能であり、ICD作動による心筋障害を抑制し、生命予後を改善する可能性が示唆された。 尚、研究代表者と研究分担者は、毎月、会合を開き、臨床結果、動物実験データの確認、及び、検討、シミュレーションに関する提案及び結果検討、学会発表及び投稿論文の纏め及び修整を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由:コンピューターシミュレーションに関しては、現時点で試行可能なシミュレーションを試行し、その結果は動物実験で、シミュレーションと臨床上の結果と大きな差異を生じないことが確認された。 臨床に於いて、は紙面上で承諾を得たICD植え込み適応症例26例の88%で誘発されたVFが5Jで停止可能であった(対象では16%のみ)。この理由として、シミュレーションの結果から、左腋窩にICDを留置した場合には、ICD本体から上昇、下降する伝導と、本体から前面、背面を水平に伝導し右室と左室に流入している伝導が認められたが、この場合、上昇、下降する伝導は前胸部に留置した場合と同様であるが、水平に伝導し右室と左室に伝導する電流は、前胸部を伝導するより、背面を伝導したほうが伝導距離は短いため、より、強い電圧が背面からの伝導にかかり、左室へ効果的に電流が伝導し、除細動閾値を低下させるのではないかと推測された。また、除細動閾値を低下させる原因としてのこの推測は、右室より左室の除細動が心臓全体の除細動に寄与するとの報告とも一致する。 達成度:この研究報告は、各関係学会のシンポジウムで4回、招待講演で2回、一般発表で1回報告され、ICDの心筋障害抑制、高DFT症例に対する治療法は元より、臨床とコンピューターシミュレーションによる新しい解析方として各方面から注目されるに至っている。 また、現在、国際ジャーナルに複数投稿予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1.今までの検討は健康人のモデルを用いていたが、心疾患による個人差を重視し、個人のモデルを作成し、シミュレーションを行い、臨床に対する応用度を高める。 2.臨床での信頼性、有用性を、より、確定されたものとする。a)ICD植え込み後のDFTテスト時にショック作動前後で、心筋障害の心筋逸脱酵素、等、の体液成分を測定して、心筋障害の程度を数値として評価する。b)長期的にICD作動と生命予後の関連を、腋窩群と前胸部群で経過観察する。c)東邦大学医療センター大橋病院循環器の関連施設で多施設研究を開始する。d)現在、Device感染の観点から、single coilが用いられる傾向にあるが、これは、Deviceが高出力となったことからsingle coilでも除細動が可能となったことにも起因する。しかし、高出力では心筋障害を惹起する可能性も高い。このため、シミュレーションを用い、除細動閾値、心筋障害の観点からもDual coilとsingle coilでの長所・短所を明確にする。 3.SICDに関するシミュレーション:Subcutaneous ICDの臨床使用は,日本では、まだ許可されてないが、近い将来、導入される予定である。SICDの本体も左腋窩に植え込まれるが、シミュレーションを臨床より先行して試行し、理論上で心筋障害の程度、及び、除細動閾値を検討し、その有用性を検討する。この為には、再度、動物実験も必要となる。 4.今までの研究成果を纏め、学会発表及びジャーナル論文投稿を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
部品:本研究では、より高次のコンピューターが必要となり、購入した。次に、会議等の検討会で用いる、高次機能を備えた、持ち運びが可能なコンピューターも購入した。旅費:東邦大学医療センター大橋病院循環器内科の医局規定により、学会時の交通費は、発表者に限り、医局費で補充することになっている。本研究に関して、多くの学会で発表したが、全て発表者であり、この旅費は医局費で賄われたため、科研費からは出費しなかった。謝金:研究の基礎及び臨床面で協力した同医局の不整脈グループの医師に謝金を支払う予定であった。しかし、科研費の規定で、出勤記録、等、が義務付けられている事を失念していたため、科研費からの謝金としての支払いが不可能となった経過がある。その他:研究、実験に用いた電極等の材料や参考資料は、臨床上、科研費との分離は困難で、全て、病院にある材料、及び、図書館、インターネット等による情報収集で間に合わせた。 以上、次年度の科研費に於いては、上記の状況下で、当初、予定していた支出より、部品が大幅に超過し、旅費、謝金、その他が低下していた。 しかし、今季に於いては、基礎的研究が主であったが、今後、(1)発表の手段として、手術記録、実験データの記録のためのカメラやビデオカメラ、データ保存用ハードデェスク、計算用パソコンの追加が必要となる。そのため、部品費に20万円を追加する予定である。(2)今回の研究と病院での業務を分離し、研究での出張には科研費を充当することとし、且つ、今後は国内に留まらず、海外への出張の予定があり、これに相まって、頻回な打ち合わせが必要となり、旅費の需要が大幅に増加する。そして、旅費に20万円を追加する予定である。(3) 規定に準じた確実な、謝金の支払いが必要、等、が重なるため、残額(46,140円)を、これらに充当したいと考えている。
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