研究概要 |
本研究の目的は、生体内の巨大な複合体であるリボソームにおけるペプチド結合形成反応の段階的な機構を量子化学計算によって検証することである。 申請者らは先に行った研究において、リボソームにおけるペプチド結合形成の段階的な反応機構として、反応基質のアミノ基からtRNAのA76へと水素結合によってプロトンが受け渡されるプロトンシャトル機構を提案した(K. Fukushima et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 2012, 85, 1093)。 平成25年度は、酵素の活性中心の電子的・立体的影響をより厳密に考慮するために、申請備品のワークステーションを用いて、先の論文よりも広い領域に量子化学計算を適用してプロトンシャトル機構の再検討を行った。計算の入力構造は大腸菌リボソームの50SサブユニットのX線構造データ(PDBID:1VQP)から反応活性中心を含む半径20オングストローム以内の領域(2,354原子)を切り出して作成した。計算はgaussian09プログラムのONIOM法を用い、反応活性中心は精度が高い密度汎関数法を、周辺部は計算速度が速い分子力学法を用いて計算した。先の論文では、量子化学計算(密度汎関数法)を適用した領域は64原子を含んでいたが、本研究では181原子を含む領域を量子化学計算の対象とした。 この反応の経路を計算するためには、反応物、遷移状態1、中間体、遷移状態2、生成物、の五つの状態の安定構造を厳密に求める必要がある。平成25年度には、このうち反応の性質を決める上で重要な遷移状態1、中間体、遷移状態2の粗い構造を求めることができた。今後これらの構造の精密化を行い、反応物と生成物の計算を加えてプロトンシャトル機構全体のエネルギーを求める予定である。
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