研究実績の概要 |
本研究の目的は、生体内の巨大な複合体であるリボソームにおけるペプチド結合形成反応の段階的な反応機構を、量子化学計算によって検証することである。 申請者らは先行研究で、リボソームにおけるペプチド結合形成について、プロトンが移動しながら反応を触媒するプロトンシャトル機構を提案した(K. Fukushima et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 2012, 85, 1093)。平成25年度に申請者は、申請備品のワークステーションを用いてプロトンシャトル機構の詳細について検討を行い、先行研究よりも広い領域に量子化学計算(B3LYP/6-31G(d,p))を適用したONIOM計算によって、二つの遷移状態と反応中間体の粗い構造を求めた。 平成26年度は前年度の成果を基にさらに精密な計算を行い、プロトンシャトル機構の反応物、二つの遷移状態、反応中間体、生成物のすべてについて精密な最適化構造を求めた。先行研究で得られていた二つの遷移状態のONIOM計算によるエネルギーは、49.7 kcal/mol と 66.7 kcal/mol であったが、本研究で得られた遷移状態のONIOM計算によるエネルギーは、それぞれ 29.5 kcal/mol と 41.4 kcal/mol であった。また、反応活性中心のみをとりだした量子化学計算(B3LYP/6-31G(d,p))による遷移状態のエネルギーは、先行研究では 38.2 kcal/molと50.9 kcal/mol であったが、今回の計算では、27.3 kcal/mol と 32.4 kcal/mol であった。 平成26年度に行った計算の結果、ONIOM計算において量子化学計算の適用範囲を広げることにより、先行研究よりも低い活性化エネルギーを得ることができた。
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