本研究は、主に周期的な行動特性に着目することで、アリに見られる社会性発現メカニズムの理解を深めることを目的として実施している。今年度の主な実績は次の2点である。 ①ワーカーとの接触によるリズムの変化の計測:トゲオオハリアリに見られる特徴的な行動の一つである「パトロール行動」は、女王とワーカーの「個体としての接触行動」と「集団としての合理的・適応的な振る舞い」のつながりを探ることが可能な興味深い現象である。女王は徘徊してワーカーと接触することで卵巣発達を抑えるが、コロニーサイズに応じた頻度でパトロールを行うことが知られている。一方で、完全に隔離された女王単体はactive-inactiveのリズム周期を示すことが知られている。これまで両者の知見は個別に論じられていたが、本研究では、両者を組み合わせ、「接触行動により得られたワーカーの状態に応じて女王が自身のリズムを変化させる。これにより適応的なパトロール行動が生じている」との作業仮説を立て、それを検証する実験を行った。仕切りのある2つの空間それぞれに隔離時間が異なるワーカーを入れ、それぞれの空間内における女王の行動リズムを計測した。その結果、隔離時間が長いワーカーとの接触により、active-inactiveのリズム周期が短くなること、1回の接触での影響は小さく、複数のワーカーと接触することでその傾向が明確化することを明らかにした。この現象に基づいた数理モデルの構築も行った。 ②ワーカー同士の接触がリズムにもたらす影響:内役のワーカーもリズム行動を示すことが知られている。そこで、空間を疑1次元化し、複数のアリが並走できるフィールドを作成し、(1)隔離壁を網にしていつでも接触できる状況での振る舞い、(2)網を一部のみにすることで接触できる条件を限定した状況での振る舞い、からリズムの同期について計測を行った。
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