研究課題/領域番号 |
25330353
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
石原 彰人 中京大学, 工学部, 教授 (80387620)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 網膜OFF型双極細胞 / シナプス / 数理モデル / 光応答シミュレーション |
研究実績の概要 |
視覚系の入り口である網膜は、単純に光情報を神経情報に変換するのみならず、視覚情報に対する前処理機能を有した知能センサーとも呼べる機能を有している。その機能は、網膜内の最初の神経回路である視細胞、水平細胞、双極細胞からなる網膜外網状層にて一部が実現されている。本研究では、網膜の生理学的知見を基に詳細な神経回路モデルを構築し、それを利用した解析から、その機能の1つである時間的コントラスト利得制御に関わる神経メカニズムを明らかにすることを目的とする。 平成27年度は、前年度までに構築した錐体視細胞-OFF型双極細胞間のシナプス伝達過程について、これまでの研究で構築した各サブシステムのモデルの統合を進めた。シナプス伝達過程は、錐体シナプス終末からの伝達物質放出過程、その伝達物質のシナプス間隙内での濃度調節、OFF型双極細胞後シナプス終末におけるAMPA型グルタミン酸レセプタなどの神経メカニズムからなる。前年度までは、これらの各過程の生理学的知見を満足する部分的な数理モデルを構築してきた。本年度は、これらを統合し、一連の錐体視細胞-OFF型双極細胞間シナプス伝達過程を再現する数理モデルを構築した。統合にあたり、脳神経系にみられる最新の知見なども考慮しながら、生理的特性を満足するモデルを構築した。 次に、そのようにして構築した錐体-双極細胞ネットワークモデルを用いて、コントラスト順応応答シミュレーションから順応過程における各サブシステムの寄与を解析した。その結果、双極細胞AMPA型グルタミン酸レセプタにみられる性質が、この神経回路のコントラスト順応に対して主に寄与していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画において最終年度は、錐体視細胞-OFF型双極細胞神経ネットワークに対して、水平細胞やアマクリン細胞など他の細胞からの入力の影響まで含めた解析や、モデルを大規模化し、2次元画像情報における解析など、複数の角度からコントラスト順応の役割やそれに関わる神経メカニズムの解明を進める予定であった。 しかしながら、シナプスに対する研究は、様々な新しい発見が脳中枢神経系で発表されており、我々が対象としている網膜のシナプス伝達過程における数理モデルにもそうした知見を随時導入しながら改良を進めた。このため、基礎となる錐体視細胞-OFF型双極細胞神経ネットワークモデルの構築が予定より遅れた。また、大規模モデルのシミュレーション環境として、平成27年度中に解析ソフトウェアmapleを導入しgridによる並列演算環境を利用したシミュレーション環境を追加した。この環境の整備に予定より時間を要したことも、予定としていたところまで研究が到達しなかった理由の1つである。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では、平成27年度を最終年度として錐体視細胞-OFF型双極細胞神経回路の数理モデル化を終了する予定であった。しかしながら前述のようにコントラスト順応という現象に対する解析や、その画像情報処理における役割の解析などに遅れが生じた。そこで1年間研究期間を延長し、この点について解析を進める。特に学会・研究会などの発表を通じて他の研究者からの意見交換を活発に行いならがら解析やモデル改良を進める。それらを通して平成28年度中に、錐体視細胞-OFF型双極細胞神経回路におけるコントラスト順応メカニズムへの寄与を、できる限り詳細に明らかにし、発表していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
網膜外網状層のコントラスト順応メカニズムを明らかにするため、平成27年度は、錐体-双極細胞神経回路の数理モデルの構築とそれを利用した解析を進めてきた。前述した理由で、モデルの構築プロセスに時間を要したため、研究が計画よりやや遅れが生じた。このため、とくに対外発表を通じた研究成果の検証が平成27年度中に十分できなかった。そこで、残した解析を進めるとともに、平成28年度にてその作業を進めていきたい。
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次年度使用額の使用計画 |
研究に必要な機器備品は、平成27年度までに導入している。これらを使用しながら網膜外網状層のコントラスト順応メカニズムのさらなる解析を進める。この活動の中でコンピュータ関係の消耗品(プリンタインクなど)を購入する予定である。 また、残り予算のうち多くは学会発表のための旅費交通費や論文投稿のための諸費用に使用し、学会発表を通じて研究成果の検証作業を進め、論文の発表および投稿を進める予定である。
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