研究課題/領域番号 |
25330355
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
依田 隆夫 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 講師 (50367900)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 分子動力学シミュレーション / 拡張アンサンブル法 / 抗菌ペプチド |
研究概要 |
ディフェンシンはほ乳類の主要な抗菌ペプチドのファミリーの一つである。 cryptdin-4 (crp-4) はマウスの小腸のα-ディフェンシンであり、その高い抗菌活性で知られている。また、ジスルフィド結合を欠損させた変異体が活性を持ち、いくつかの菌に対しては(野生型と比べて)高い活性を示す。野生型crp-4は3つのジスルフィド結合により安定化されたバレル様の構造を持つが、明確な疎水コアを欠く。そのため、ジスルフィド結合を無くすと天然構造を保てなくなると考えられる。このことと上述の実験事実等から、抗菌活性そのもののために構造揺らぎが重要であると言われている。 我々は、ジスルフィド結合を失うことによりcrp-4の構造揺らぎが増すとしても完全なランダムコイルになるわけではなく、何らかの構造的な秩序が存在し、それが変異体の活性に対して何らかの役割を果たしているのではないか、と考えた。この問いに答えるために、野生型と変異型のcrp-4のシミュレーションによる立体構造探索を行っている。 (1) 2013年度には、crp-4の野生型と7種類のジスルフィド欠損変異体の立体構造探索を、温度を交換するレプリカ交換法により実行した。その際、CHARMM力場と一般化Born陰溶媒モデルを使用した。得られたシミュレーションデータに基づき300 K における立体構造分布を分析し、以下の結果を得た。 (2) CHARMM27( + CMAP)力場を使用して得られたジスルフィド全欠損型の室温における構造集団において二次構造を調べたところ、ヘリックス含量が大きかった。元来crp-4はヘリックスを含まないので、不自然な結果であると思われた。そこで、最新の力場であるCHARMM36力場を用いることとし、計算をやり直した。 (3) 300 K における正電荷の分布を調べたところ、一定電場による分布の偏り具合に変異型毎の個性が見いだされた。この結果と、以前報告された活性に関する実験結果との間に相関が見いだされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請時に計画した2013年度の研究計画の内容をほぼ完全に実施した(上述の(1), (2), (3))。ただし、以下に述べるように、最終的に行ったシミュレーションの長さが計画よりも短い長さにとどまった。これについては2014年度にシミュレーションを継続し、計画通りのデータを得る予定である。 課題採択時には野生型とジスルフィド全欠損型の構造探索を行う計画であったが、交付申請時に3つのジスルフィド結合を部分的に欠損させた6種類の変異体を追加し、合計8種類の分子について立体構造探索を行うこととした。計算に要する時間を減らすために一般化Born近似による陰溶媒を使用し、各変異体につき、レプリカ数16、レプリカあたり 260 ns のレプリカ交換分子動力学(REMD)計算を実行した。当初は計画通り CHARMM27 (+ CMAP)力場を使用したがヘリックス含量が大きいことが分かった(上述)ため、最新版の CHARMM36 力場に切り替え、計算をやり直すことにした。 結果的に、CHARMM36力場を用い、各変異体につきレプリカ数16、レプリカあたり 60 ns のREMDを実行した。また、負に帯電した膜の近傍の環境を模して、一様電場の下での構造探索も同様に行った。得られたデータの分析により上述の結果を得た。 シミュレーション用ソフトウェアパッケージ NAMD を使用し、温度を交換するレプリカ交換分子動力学計算を実行する tcl スクリプト(パッケージに含まれている)を(本研究での使用法に合わせるために)改変して使用した。新規に必要となった解析ソフトウェアはPythonで開発した。また、CHARMM36力場のNAMDによる使用の正当性を、本家のCHARMMソフトウェアによるエネルギー算出結果との比較により確認した。 これまでに述べた成果を含む発表を、2014年度の蛋白質科学会年会で行う予定である。また、9月に行われる国際シンポジウムでの口頭講演での発表も計画している。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度に実施した、一定電場存在下のcrp-4とバリアントの分子シミュレーションによる構造探索により、crp-4のジスルフィド欠損変異による活性の変化のメカニズムに関する知見が得られた。この結果を受けて、2014年度には以下の内容を実施する。 (1) 上述のように各バリアントの陰溶媒下のMDが予定していた長さに到達していないので、シミュレーションを続行する。その後、各バリアントの立体構造分布について、構造分類(クラスタリング)、二次構造解析、荷電残基の空間分布、疎水残基の空間分布を分析し、立体構造分布に対するジスルフィド欠損変異の影響、および一定電場の影響を明らかにする。 (2) 陰溶媒の使用による(例えば)過剰な二次構造形成などの影響が考えられるため、ジスルフィド全欠損型 crp-4 のような揺らぎの大きい分子の立体構造分布は陽に表現された溶媒中で求めることが望ましい。そこで、陽溶媒中でのシミュレーションを行う。自由度が増すため通常のREMDでは必要な計算時間が膨大になる。そこで、マルチカノニカルレプリカ交換法(MUCAREM)を使用する。 さらに、2015年度には、 (3) 陽に配置した脂質二重層膜とcrp-4分子を含む系のシミュレーションを計画している。その初期構造として(2)の結果を使うのが原計画であるが、(2)のシミュレーションを周期境界条件で実行するために必要なソフトウェア開発(別のプロジェクトで実施)が若干遅れている。これによる研究計画全体の遅れを回避するために、(1) で得られたデータを(3) の初期構造として使用することも検討する。膜の脂質分子とペプチドの相互作用を野生型と変異型で比較し、揺らぎの大きい抗菌ペプチド分子の機能のメカニズムに関する知見を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度において掲載が決定した論文(Yoda et al., Proteins, in press)の出版のために生じる経費(図のカラー代、別刷り代)を見込んでいたが、実際の掲載が2014年度になること(見込み)となり請求書も送られてこなかったため。年度末ぎりぎりに請求が届く可能性を考え、資金を使わずに確保していた。 年度が変わったため上述出版経費は学内研究予算で支払うことができる。そこで、本次年度使用額については、2014年度以後の研究計画を効果的に実施するために物品費(主にワークステーションの購入費用に当てる計画)あるいは旅費に当てる。
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