研究課題/領域番号 |
25330356
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
山田 訓 岡山理科大学, 工学部, 教授 (20393506)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | リウマチ / コンピュータシミュレーション / NFkB / IL-6 / 滑膜細胞 / Th17 / マクロファージ |
研究概要 |
免疫系の破綻によって多くの疾患が発症する。免疫系の制御原理と疾患の関係をコンピュータモデルを用いて理解することは新たな治療法につながると考えられる。今年度は自己免疫疾患の一つであり、臨床的にも重要なリウマチの発症のモデル化に取り組んだ。リウマチでは、関節に存在する滑膜細胞が増殖し、軟骨の破壊を起こすことによって病態が進行する。滑膜細胞の増殖には大阪大学の村上正晃准教授(来年度からは北海道大学)が発見したIL-6とIL-17によって活性化する炎症アンプと呼ばれる反応が重要である。今回のモデルでは、滑膜細胞内のIL-17によって誘導されるNFkBの経路とIL-6によって誘導されるJAK/STATの経路を計算することによって炎症アンプをモデル化した。炎症アンプの挙動の計算とともに、関節内の細胞数やサイトカイン濃度を計算するモデルを構築した。IL-17はヘルパーT細胞の一つであるTh17によって産生されており、Th17は血液中から関節内に侵入する。血管と関節からなるモデルを構築し、リウマチ発症のモデルを構築した。今回は、胸腺などでのヘルパーT細胞分化はモデルに組み込んでいない。血液中に存在するTh17とmacrophageが関節に侵入することにより滑膜細胞の炎症アンプの活性化が起こり、リウマチを発症することを再現した。さらに、抗IL-6抗体により炎症アンプを抑えられることを示すことができた。しかし、臨床的に有効である抗TNF抗体の効果を再現することはできなかった。この結果を日本分子生物学会と日本免疫学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
体内各部の免疫系の働きと体全体での調節メカニズムを解明することが各種疾患の発症メカニズムを理解する上で重要である。今年度は、自己免疫疾患として重要なリウマチの発症をモデル化することに注力した。関節での反応に重点を置いてモデル化したため、当初の計画である体各部でのヘルパーT細胞の割合の変化や胸腺での分化などはモデルに組み込まなかった。しかし、ヘルパーT細胞分化のモデルは既に確立しているので、今回の関節部のモデルと統合することは容易であり、来年度実施する予定である。本研究の主要な課題は細胞内のシグナル伝達系パスウエイの挙動に基づく細胞群の挙動を計算し、体全体の挙動と疾患の発症メカニズムを模擬できるシステムを構築することである。今年度の実施内容は当初の計画とは少し異なっているが、主要な課題に沿った研究内容であり、本研究全体の計画から考えれば、順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
IL-6で誘導されるJAK/STATシグナル伝達経路の抑制物質であるSOCSの抑制が働かない変異(F759)型レセプタを持つマウス(F759マウス)はリウマチを容易に発症するので、リウマチ発症のメカニズムを研究するモデル動物である。F759マウスを保有する北海道大学の村上正晃教授と連携し、生物実験とモデル研究を連携させることにより、実体に即した正確なモデルを構築する。F759マウスの現象を再現するモデルを構築し、生物実験結果を再現するモデルを構築するとともに、モデルによって予想される結果を生物実験で検証することによってモデルの改良を行う。関節部での挙動を再現するモデルを構築してから、胸腺や血管内におけるヘルパーT細胞分化のモデルを組み込み、リウマチを再現する体全体のモデルを構築する。その後、構築したモデルの各パラメーターに対するSensitivity Analysisを行い、リウマチ発症に重要な要素の解析や制御メカニズムの解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
連携研究者である慶応大学吉村明彦教授との研究打ち合わせを予定していたが、今年度はリウマチ発症のモデル化に注力したため、吉村教授との研究打ち合わせの代わりに、リウマチに関連した研究を行っている大阪大学村上正晃准教授協力していただき、村上准教授との研究打ち合わせを行ったため、旅費使用が予定より少額になった。 国際学会での発表や北海道大学に移動した村上正晃教授との研究打ち合わせなど当初計画より旅費を多く使用する。
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