研究課題/領域番号 |
25330356
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
山田 訓 岡山理科大学, 工学部, 教授 (20393506)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | リウマチ / コンピュータシミュレーション / F759マウス / NFkB / IL-6 / 滑膜細胞 / Th17 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
免疫系の破綻によっておこる自己免疫疾患の一つであるリウマチ発症のメカニズムを解析するために、発症の分子メカニズムのコンピュータモデルの構築を行っている。昨年度、リウマチの発症を解析するために、血管と関節からなるリウマチ発症のコンピュータモデルを構築した。今年度は、コンピュータモデルと生物学実験との比較を詳細に行い、モデルを改良していくために、F759マウスと呼ばれるリウマチモデルマウスのモデル化を行った。F759マウスでは、IL-6の受容体の一つであるgp130タンパク質に点突然変異があり、759番目のチロシンがフェニルアラニンに置換されている。リン酸化した759番目のチロシンは、IL-6シグナルの抑制物質であるSOCS3が結合する部位である。F759マウスではSOC3が結合できないため、IL-6シグナルが過剰に活性化され、自然発生的にリウマチが発症する。F759マウスをモデル化するために、昨年度のモデルでは、IL-6シグナル経路を簡略化していたところを改良し、SOCS3によるネガティブフィードバックをモデルに組み入れるようにした。F759マウスは、IL-6レセプタとSOCS3の結合反応を除外することによりモデル化した。このモデルを用い、野生型マウスとF759マウスの違いを再現することができた。また、北海道大学村上正晃教授が発見したNFkBとSTAT3の複合体形成の生物学的意味について、モデルで、複合体形成をする場合としない場合の挙動を比較することによって検討した。滑膜細胞の培養細胞実験結果と比較するため、IL-6とIL-17を添加した場合の挙動についても検討した。今回も、血管と関節だけで構成されているモデルで、Th17とマクロファージがケモカインによって関節に誘引されて、IL-17やIL-6を産生するという過程をモデル化しており、胸腺におけるヘルパーT細胞分化をモデル化していない。この結果を、日本分子生物学会と日本免疫学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
体内各部の免疫系の働きと体全体の調節メカニズムを解明することが各種疾患の発症メカニズムを解明するうえで重要である。その際に、一般的なモデルではなく、一つの具体的な疾患に絞りモデルを構築し、その中で一般的な法則を見つけ出すことが重要である。昨年度開発したリウマチのモデルを改良していくためには、実験結果と比較していくことが必要である。F759マウスはリウマチ様の病態を容易に発生させることができるので、生物学実験が容易である。F759マウスの実験結果と比較検討するために、今年度は、F759マウスのモデル化に注力した。当初の計画である体各部でのヘルパーT細胞の変化や胸腺での分化は組み込んでいない。具体的な疾患であるリウマチの発症でキーとなる関節内での反応を詳細にモデル化し、その発症に関係するヘルパーT細胞を明確にした上で、そのヘルパーT細胞の分化に必要な部位を特定し、モデルに組み込むことが発症を理解するための近道であると考えているので、関節内での発症メカニズム解明のために重要なF759マウスのモデル化に注力した。 本研究の主要な課題は、シグナル伝達系パスウエイの挙動に基づく細胞群の挙動を計算し、体全体の挙動の計算と疾患の発症メカニズムを模擬できるシステムの構築である。今年度の実施内容は、当初の計画とは少し異なっているが、主要な課題に沿った研究内容であり、本研究全体の計画から考えれば、順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
マウスでの実験や分離した滑膜培養細胞での実験が行えるF759マウスのモデルを構築したので、F759マウスを保有する北海道大学村上正晃教授と連携し、生物学実験結果とシミュレーション結果を比較することによって、モデルの改良を図る。また、NFkBとSTAT3の複合体形成がある場合とない場合のモデルの挙動を比較し、複合体形成の生物学的意味を見出すとともに、モデルで予測される挙動を生物学実験で検証することを行う。関節でのリウマチ発症のモデルを確立してから、発症に必要なヘルパーT細胞の分化や体内での循環などを胸腺や血管を組み込んだモデルで構築する。構築したモデルで各パラメーターの値を変化させて挙動の変化を調べるSensitivity Analysisを行い、リウマチ発症に重要な反応の特定や発症メカニズムの解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
リウマチ発症の研究特にF759マウスの研究を行っている北海道大学の村上正晃教授との研究打ち合わせを複数回行ったり、国際学会での発表を予定していたが、研究代表者である山田が7月に事故で左手を骨折し、しばらくの間、北海道への出張や海外出張が困難になったため、旅費使用が予定より少額になった。
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次年度使用額の使用計画 |
海外の国際学会での発表や北海道大学村上教授との研究打ち合わせなど当初計画より旅費を多く使用する。
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