イオンモビリティー質量分析(Ion Mobility Mass Spectrometry: IM-MS)は、生体分子の構造をその衝突断面積(Collision Cross Section: CCS)に基づいて特定する手法である。近年、IM-MS法を用いてこれまで難しいとされてきた糖鎖の構造異性体を分離することが出来るようになってきた。本申請課題では、生命現象や疾患に関わる糖鎖を明確に特定する手段として、計算化学によるIM-MSデータ(CCS)の予測法の開発と応用に取り組んできた。これまでの研究で、実験条件に見合った計算に必要な分子モデルと力場パラメタを開発し、それを用いて10種類のN型糖鎖のCCSを予測し実験データと良い一致を得ることに成功した。
本年度は、CCSを特徴づける本質的な因子を明らかにするために、糖鎖の立体構造分布及び相互作用の解析を行いCCSとの関連を調べた。解析結果は、糖鎖構造異性体のCCSに見られる違いが、それらのフォールディング構造の違いを反映していることを強く支持する。さらに、糖鎖の化学構造とプロトン化状態がフォールディング構造に大きく影響していることを突き止めた。N型糖鎖のCCSデータを決める物理化学的な要因が明らかになることで、実験データの解釈が容易になるだけでなく、今後、新しい糖鎖についてもCCSの予測が可能になると期待する。
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