最終年度のH28年度は、前年度に行った、ギリシャ語新約聖書の写本・校訂本間の写本の読みの違い(異読箇所)をもとに数量化した写本間写本間の類似・相違性に関する調査結果を踏まえて、異読距離計算の手法の妥当性について分析を行った。 分析対象のテキストには、本研究の写本・校訂本では、適応する異読距離法の精度を計算することが不可能であるため、写本の系統研究において,ベンチマークデータとして広く浸透している「人工写本」テキストを対象として,異読から作成された異読距離行列による写本の系統樹推定を行った。人工写本データには,系統解析法の適用を目的として人為的に作成された、Spencer et al.(2004)のParzivalを使用した。 異読箇所の比較として、校合様式の異なる2種類のデータセットを使用した。そして、読みのアラインメント(並行箇所)の違いによる系統樹の推定結果の相違点を確認した。同時に、異読距離については、異読の並行箇所の文字の不一致度から測る手法、異読の文字の違いに基づいた計算法の2つの手法を適用した。 これらの校合様式と異読距離計算法を組み合わた距離行列データセットを作成し、Roos& Heikkila (2009)のベンチマークテストを参考にして系統樹推定を行った。そして、本当の系統関係(正解系統樹)と推定系統樹とを比較しながら、系統樹の精度を調べ、それぞれの異読距離が持つ特徴について考察した。系統樹推定には、階層的クラスター分析と近接結合による系統樹推定を行い、正解系統樹と比較しながら精度を求めた。精度の結果から、異読並行・距離計算法に関わらず、ベンチマークテストの報告と同様に、近接接合法の適用が高い精度であること確認した。編集距離による異読距離行列に関しては、異読並行様式により精度が大きく変化することを確認した。
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