研究概要 |
本研究は, 英国の特別なニーズをもつ学生に対して大学図書館が行う特別支援について,取組みの背景,実際の取組みと仕組みを検証し,わが国の大学図書館の特別支援への示唆を得ることを目的とする。本年度は, (1) 課題1:インタビューデータに基づく特別支援の取組み背景の検証, (2)課題2から課題5の事前調査:特別支援の取組みの実際と支援の仕組みを問うオンライン調査を行った。 (1)特別支援の取組み背景の検証では, 2011年, 2012年に行った大学図書館16館の特別支援担当者へのインタビューデータをもとに, ブロンフェンブレンナーの「人間発達の生態学」理論を援用して分析した。 結果として, ①パートナーシップの精神を根底とする職員の意識,②大学図書館,障害サービス部,IT関連部署,サポートワーカーとの連携, ③政府による法的整備と大学による組織としての支援環境体制づくり, ④大学外におけるネットワーク(大学図書館地域別研究会,図書館コンソーシアム,高等教育支援機関)を活用した研修。これらの相互の影響が特別支援を支えていたことが明らかになった。なお, これらの結果を還元するため, 日英教育学会と日本図書館情報学会にて発表を行った。イギリスの大学図書館における検証結果は,日本の大学図書館においても, 今後,特別なニーズをもつ学生に特別支援を行ううえで, 示唆を与えるものであった。併せて,結果を英文翻訳し,イングランド大学図書館関係者に還元した(2014年2月)。さらに,論文をまとめ投稿の準備中(2014年5月現在)である。 (2) 事前調査としてイギリスの大学図書館員対象のオンライン調査では, 2014年2月17日から3月20日にかけて実施した。回収率は45%(69名/152名依頼 72件回答があったが, 3件はフェイスシートあるいは, 質問回答が9割以上無回答のため,外した)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的を遂行するため, 2013年度は課題1と課題2から課題5の準備を行った。課題1である特別支援の取組み背景の検証の成果は,日英教育学会と日本図書館情報学会において2013年9月と10月に発表済である。この結果をイギリスの大学図書館員に対して還元するため,英文翻訳した。さらに,投稿用として,まとめている最中である( 2014年5月現在)。 また,課題2から課題5の事前調査として,イギリスの大学図書館員対象のオンライン調査を遂行するため, 2013年6月に特別支援調査に図書館を含む論文著者2名(Mick Heal, Andrew Brandly)にメールにて問い合わせて質問項目を得た。また, 訪問した大学図書館関係者に, 質問項目のモニター依頼を出した。内, 10名より, モニター承諾の返事を得た。2013年7月~8月にかけては,質問項目の作成を行った。2013年9月~2014年1月にかけては,モニターの意見をもとに, 質問項目の改訂13回行った。 2013年12月~2014年1月 には,オンライン調査URLを送るため,担当者のアドレス確認作業を行った。そして,2013年2月にREASを利用したオンラインURLを作成した。また, イングランドの大学図書館員モニター関係者5名にオンライン調査の予備テストを行った。併せて, 複数回答数の修正を諮った。 2014年5月現在,課題2「特別支援担当の役割と中心的な取組み支援内容の検証」を進めるため,オンライン調査結果の分析を行っている最中である。上記の理由から,「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2014年度(課題2):特別支援担当の役割と中心的な取組み支援内容の検証,および(課題3)の事前準備 2014年度前半は,2014年2月から3月にかけて行ったオンライン調査の結果から,特別支援担当の役割と中心的な取組みについて基礎統計を用いてデータを集計する。分析結果は,2014年度9月に日英教育学会,11月に日本図書館情報学会にて口頭発表する。 2014年度の11月以降は,課題3の事前準備を行う。課題3とは, 特別支援の問題と対処方法の検証である。まず、特別支援の問題と対処方法について、2013年度後半におこなったオンライン調査で得られたデータを統計処理を行い、結果を概観する。 次に、2015年2月に、オンライン調査にて,訪問可能と回答してくれた大学図書館担当者に訪問調査を行う。なお,質的分析を行うため訪問対象数を最低8とした。訪問大学図書館候補は,特別支援を委託派遣会社によって行っている大学や, Medwayにある複数の大学が共同で利用するDrill Hall Libraryも含める予定である。
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