研究実績の概要 |
本研究は, 英国の特別なニーズをもつ学生に対して大学図書館が行う特別支援について,取組みの背景,実際の取組みと仕組みを検証し,わが国の大学図書館の特別支援への示唆を得ることを目的とする。 本年度は, 2013年度に行ったオンライン調査の結果をもとに,実際の取り組みを検証するため,(1)特別支援担当の役割と中心的な取組み支援内容の検証(課題2),(2)特別支援の問題と対処方法の検証の事前準備としてイギリスの10大学図書館関係者にインタビュー調査を実施した(課題3)。 (1)特別支援担当の役割と中心的な取組み支援内容の検証では,図書館特別支援担当と支援体制に着目して,オンライン調査データのまとめと分析を行った。結果として,特別支援担当の役割では,専任は兼任よりも,調整者としての役割を担っていた。取り組みでは, 通常業務の工夫の支援が中心となっていた。一方,提供率の低い支援は基本的整備,合理的配慮やニーズ対応の支援であることが明らかになった。なお, これらの結果を還元するため, 日英教育学会と日本図書館情報学会にて発表を行った。イギリスの大学図書館における検証結果は,日本の大学図書館においても, 今後,特別なニーズをもつ学生に特別支援を行ううえで, 示唆を与えるものであった。併せて,結果を英文翻訳し,イングランド大学図書館関係者に還元した(2015年1月)。さらに,論文をまとめ投稿の準備中(2015年5月現在)である。 ( 2) 課題3の事前調査としてイギリスの10大学図書館関係者19名にインタビュー調査を実施した(2015年2月14日から2月25日)。インタビューガイドは,特別支援を行う大学図書館の支援体制における6領域(基礎データ,現在の支援体制の背景,支援体制の運営,支援体制の機能,提供サービスの方略,研修)について包括的に尋ねた。特別支援の問題と対処方法については,支援体制の機能と提供サービスの方略,研修から情報を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的を遂行するため, 2014年度は課題2と課題3の準備を行った。課題2である特別支援担当の役割と中心的な取組み支援内容の検証は2013年度に実施したオンライン調査の1部の結果分析を基にした。この成果は,日英教育学会と日本図書館情報学会において2014年9月と11月に発表済である。この結果をイギリスの大学図書館員に対して還元するため,英文翻訳した。さらに,投稿用として,まとめている最中である( 2014年5月現在)。 また,課題3の事前調査として,イギリスの大学図書館員対象のインタビュー調査をした。2015年12月から1月にかけて訪問交渉を行った。そして,当初8大学を予定していたが,10大学(訪問日数6日)図書館関係者19名に個人およびグループインタビューを実施した。その際,外部組織団体との連携効果の検証(課題4)と関連して,CLAUD,OpenRoseの外部組織団体の事務局担当者にも事前挨拶を行った。今回の調査では,特別支援の問題・対処のみならず,特別支援体制についても,包括的に聞き取りを行った。この聞き取りについては,課題4とも関連するが,他部署・外部組織団体との連携や研修面も含めた。 なお,今回の聞き取り調査では,特別支援担当の役割について,さらに具体的な証言が得られた。このため,補足として,2015年5月現在,分析整理している最中である。上記の理由から,「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
1.(補足)2014年度(課題2):特別支援担当の役割 2. 2015年度(課題3):特別支援の実践における問題や課題 3. 論文投稿(課題1)・(課題2) これまでに、オンライン調査とインタビュー調査から、特別支援の体制にも主に3つの型があることが明らかになった。3つの体制とは、①図書館特別支援担当と図書館員② 図書館員(あるいはチーム),③ 大学の障がいサービス課職員である。特別支援担当が配置されている場合、特別支援業務の担当が専任か兼任で担っている。これらを踏まえて、以下の計画で今後の研究を行う。 2015年度前半は, 特別支援担当の役割の補足研究として、2014年2月に実施したインタビュー調査の結果から、特別支援担当の取り組み事例を通して、コーディネーターとしての役割をさらに具体的に明らかにする。分析結果は6月に一般社団法人全国高等教育障害学生支援協議会 第1回のポスターセッション、8月に大学図書館問題研究会において口頭発表する。 2014年度後半は,特別支援の問題と対処方法の検証を行う。まず,特別支援の問題と対処方法について,2013年度後半におこなったオンライン調査で得られたデータを統計処理を行い,結果を概観する。次に、詳細をつかむために、インタビューデータから質的分析を行う。分析結果は、2016年5月に予定されている図書館情報学会にて口頭発表する。 並行して、発表要綱をもとに、課題1と課題2の各論文を完成させ投稿する。
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