研究課題/領域番号 |
25330398
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
竹田 陽子 横浜国立大学, 環境情報研究院, 教授 (80319011)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ディープスマート / 実践知 / イノベーション創出 / 事業プランニング / デジタルストーリーテリング / 実践の理論 / デザインリサーチ / 伝承 |
研究概要 |
本研究は、仕事の場において職業人がシステム全体の複雑な相関関係を把握して適切な判断を迅速に下す能力であるディープスマートの獲得・継承のメカニズムを解明し、ディープスマートの獲得、継承を支援する情報環境の設計指針を作成することを目的とし、本年度は、第1に、新事業や企業内の新しい試みのプランニングに関わるディープスマートの獲得、継承をテーマに、企業の上級管理職、経営者、高度専門職に対して19事例のイン・デプス・インタビューを実施した。その結果、学習者が既存の境界を広げて多様な主体と結びついていくことが求められる状況にあるほど、既存の視点を変える外的表出、内察、実践の理論化、評価基準の拡大が盛んにおこなわれることが観察された。 第2に、新規事業・起業希望者を対象に、新規事業計画に関して企画者が暗黙に持っているイメージを表出化するため、視聴覚素材を使って企画者自身が物語を語るデジタルストーリーテリングのワークショップを実施し、その過程におけるインストラクター、参加者、画像や文章、ナレーションといった外的表出物のインタラクションを映像で記録し、参加者にアンケート調査やインタビューを実施した。その結果、誰に対する語りであるのかがストーリーテリング全体の構造を決める重要な要素であること、誰もが覚えのあるような個人的な経験の語り、特に失敗や挫折などネガティブなエピソードは他者の理解と共感を促進すること、参加者の外的な表出物のうち画像と言語の使用にはある程度トレードオフがあること、画像による表現への抵抗感は個人差が大きいことなどが明らかになった。 第3に、第1の研究で得られた学習関与者のネットワークの拡大必要性がディープスマートの獲得プロセスに影響を与えるという知見を基にして、第1と第2の研究の比較研究として伝統芸能をフィールドとした実証研究を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1の研究である、ディープスマートの獲得、継承に関する企業の上級管理職、経営者、高度専門職に対するインタビューは19事例の聞き取りをおこない、順調に進んでいる。研究を開始した当初は、ディープスマートの適用分野を限定せずインタビューをおこなっていたが、本年度の後半には、下記の第2の研究との相互補完性を考え、新規事業や新企画のプランニングにテーマの絞り込みをおこなった。 第2に、2014年12月からは、デジタルストーリーテリングによる事業プランニングのワークショップにおける実験を開始した。起業志望者、事業立ち上げ直後の起業家、既存企業の中で新規事業をプランニングしている社会人8名が参加し、起業専門のコンサルタントを講師として、自らの事業企画をデジタルストーリーテリング作品として表現する1回3時間計4回のセッションをおこなった。セッション中のインストラクター、参加者、視聴覚素材を初めとした道具のインタラクションを映像で記録し、分析をおこない、アンケート調査やインタビューを随時おこなった。 デジタルストーリーテリングは、通常の客観的で分析的なプレゼンテーションとは異なり、企画者が文字やデータではなく画像を見せながら、個人的な経験を含めて物語を語る手法で、これを事業プランニングの手法に採用したのは、視覚聴覚に直接訴え、時間の概念を持ち、内容の主観性を積極的に受け入れるこの手法がディープスマートを獲得し、他者に伝達する一つの有効な手法であると考えられるからである。 第3に、第1の研究から得られた、学習関与者のネットワークの拡大必要性がディープスマートの獲得プロセスに影響を与えるという知見は、代表者が従来から継続して研究をおこなっている伝統芸能界で典型的に見られる現象であることから、比較研究として、韓国伝統芸能業界における調査票調査とインタビュー調査を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
第1の研究である、上級管理職、経営者、高度専門職に対するインタビューは今後も継続して実施し、事例数を拡大し、過去に調査した事例も、事業の伸展に伴う変化などを時系列で追跡することも試みる。当面は、第2の研究との相互補完性を考えて、新事業や企業内の新しい試みのプランニングにテーマを絞って聞き取りをおこなう。 第2の研究である、事業プランニングのワークショップにおける実証研究も、プログラムの内容や対象者を変えることによって諸条件を変えながら継続しておこなっていく。特に、現在注目しているのは、近年デザインリサーチで使われる新コンセプトを創出するための諸手法が、この研究に枠組みではどのように評価できるかである。初年度は、デジタルストーリーテリング手法を主に使ってワークショップを実施したが、今後は、新コンセプト創出の諸手法を比較実験し、アイディア創出、伝達の効果の差を検証していくことで、ディープスマートの獲得と伝達のプロセスを解明していきたい。 第3に、学習関与者のネットワークがディープスマートの獲得、継承プロセスに影響を与えるという第1の研究から得られた仮説の一般化可能性を見るため、前年度から開始した伝統芸能における伝承との調査票調査とインタビュー調査をとりまとめ、その結果を見て、同様な理論構造を持つ調査票を一般企業用に設計し、将来的には企業対象の調査票調査を実施する予定である。
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