本研究は、仕事の場において職業人がシステム全体の複雑な相関関係を把握して適切な判断を迅速に下す能力であるディープスマートの獲得・継承のメカニズムを解明し、ディープスマートの獲得、継承を支援する情報環境の整え方を提案することを目的とする。研究機関の前半は、新事業、新企画についての暗黙の理解をどのように獲得し、組織・業界内で継承したのかについての企業の上級管理職、経営者、高度専門職に対するイン・デプス・インタビューを実施する一方で、外的、内的表象、人工物、情報環境の役割を見るためにデジタルストーリーテリングによる事業企画ワークショップを開催して実験、観察をおこない、理論構築をおこなった。また、これらの研究から得られた理論の一般化可能性を高めるために、高度なディープスマートの獲得と継承のニーズが高い伝統芸能業界において実験、調査票調査などの実証研究を実施した。研究期間の後半では、研究期間前半で得られた、ディープスマート獲得時の学習者をとりまくネットワークの多様性と、学習者が使用する外的、内的表象の多様性が創造的なパフォーマンスに密接に関わっているという仮説を検証するために、製造業の技術者対象のイノベーション創出時の発想プロセスと情報探索のコミュニケーションに関する調査票調査をおこない、ネットワークの多様性および媒介中心性、紐帯強度が表象多様性を介してイノベーションのパフォーマンスに有意な影響を与えることを実証した。また、デザイン思考のワークショップを開催して実験、観察をおこない、調査票調査では得られないディープスマート獲得プロセスに関する質的データを収集し、ネットワークと表象の多様性を梃子にして多様な他者の視点取得を促す環境を用意することによって、組織の創造的な成果をあげるという、今後の研究につながる重要なコンセプトを得た。
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