eラーニングによるストーリー型教材は、リアリティある設定によって疑似体験ができ、学習者を飽きさせないなどの効果を持つ。他方、ストーリーに対する共感度が低い場合は期待通りの学習効果が上がらないという課題を持っている。本研究は、eラーニングによるストーリー型教材の学習をフィールドに、ストーリー文脈への学習者の共感度等を多面的に明らかにし、共感度を高めるための改善手法の枠組みの構築を目指すことを目的とする。 本研究では、主に次の3つに取り組んだ。1つめは、ストーリー型教材学習者自身が行った教材への評価についての研究である。学習経験に影響を与える要因に美学的見地を持ち込んだパリッシュの枠組みによって分析を行った。学習者個人に係わる要因としてパリッシュは「意図」「プレゼンス」「開放性」「信頼感」を挙げているが、「開放性(学習に対して心を開くこと)」がやや低い傾向にあることがわかった。 2つめは、インタビューデータを用いたストーリー文脈活用実態の質的研究である。分析結果はストーリー文脈の捉え方、および、取り組みへの意識の持ち方として図式化かでき、意識的な関連づけを図った学習者が学習上の困難を乗り越えていたことがわかった。 3つめとして、1、2を踏まえて、新たにストーリー型教材学習者へインタビューを行い、その質的研究に取り組んだ。その結果、ストーリー文脈への共感度だけでなく、ストーリー型教材への学習に取り組む前に持っていた学習スタイル(例えば、全体像を掴んでから学習に取り組みたいなど)が学習へ影響を与えていることがわかってきた。 これらの研究結果から、ストーリー文脈への学習者の共感度は、ストーリーという異なるリアリティへの類似だけでなく、学習スタイルも影響することがわかった。特に実践的なスキルを学ぶのにふさわしいストーリー型教材をさらに効果的に設計するための示唆が得られたと言える。
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