本研究課題の目標は,直感や大局観などの言葉で表される人間の判断の根拠の概要を,計算機の分析を通じて言語や図で明示的に表現する手法を研究することである.対象とする分野は,計画の通り,人工知能の判断力が熟達した人間の判断力に追いついたことを重視し,将棋や囲碁を扱うこととした.平成25-26年度の計画は,棋譜とその解説を精査し,どのような展開が解説としてとりあげられるかを,統計的に調査することであった. 予定のとおりに,将棋のプロ棋士の棋譜を対象に,各局面におけるコンピュータの思考と解説との対応を分析した.将棋についてはインターネットで棋譜中継が行われた棋譜で,各タイトル戦と予選を中心とするプロ棋士同士の対局を,実力に実績のあるオープンソースプログラムとして,GPS将棋とBonanzaを用いて分析した.また囲碁については,現在コンピュータ囲碁で主流の手法であるモンテカルロ木探索と人間の判断との関係を調査した.加えて2013年4月に,第二回電王戦第五局でプロ棋士とコンピュータ将棋の対局が実現した際には,研究代表者もGPS将棋開発チームの一員として参加し,特に計算機約700台を用いた分散計算に注力している.人間とコンピュータ・プログラムの思考の違いを知るためには,人間同士の対局の分析だけではなく,人間とコンピュータ・プログラムの対局を分析することも不可欠である.しかしコンピュータ将棋プログラムとプロ棋士の対局は今のところ数が少なく,A級棋士との対局はこの時が初めてであった.この貴重な機会を無駄にすることのないよう,計算機約700台の思考を詳細に記録し,対局後に分析を進め,まとめている.
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