研究課題/領域番号 |
25330434
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
東条 敏 北陸先端科学技術大学院大学, 情報科学研究科, 教授 (90272989)
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研究分担者 |
小野 哲雄 北海道大学, 情報科学研究科, 教授 (40343389)
植田 一博 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (60262101)
橋本 敬 北陸先端科学技術大学院大学, 知識科学研究科, 教授 (90313709)
平田 圭二 公立はこだて未来大学, 複雑系知能学科, 教授 (30396121)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 音楽情報処理 / 文法理論 / 音楽理論 / 自然言語 / 自動編曲 / 楽曲検索 |
研究実績の概要 |
本研究の三年間の目標は楽曲における文法構造の発見と構成である.このため,本年は(i)従来より取り組んできた木構造の構成に関し,距離の概念を改善することにより,木構造がより直截的に生成規則と結びつく試みを行った.また(ii)文法規則を発見する手段として,繰り返し学習モデル(Iterated Learning Model)を援用し,言語進化の実験を行った.以下,この二項目を詳細に述べる.まず(i)木構造の構成については従来より Generative Theory of Tonal Music (GTTM)に基づくボトムアップなプロセスを主にしていたが,この構成規則は生成的な文法とは言い難い.このため,本年は生成された木がより正しく人間の認知する楽曲の骨格を反映するかどうかを検討するため,25年度に行った木構造間に距離の概念を拡張し,ピッチの情報を取り入れた.この改善を検証するために(i-a)モーツァルト「キラキラ星の主題による変奏曲」K.265/300eの12個の変奏曲の間の距離を計測し直し,MDS(多次元尺度更生法)によって心理距離との差が改善されたことを確かめた.さらに変奏曲間でできた木を組み合わせて人工的な変奏曲を構成し,これがオリジナルの変奏曲とどのように近いかも計測し,心理距離との比較を行った.これら両実験結果は国際学会International Computer Music Conference (2014年9月ギリシア・アテネ)において報告された.(ii)においては,繰り返し学習モデルによる世代間の言語間距離の測定を行い,社会ネットワークの形状による情報伝達のモデルに応用した.また文法学習の際に不必要に長い文字列を持った語彙規則が現れるため,各語の語尾を短縮することによって文法学習を高速化させることに成功した.また(i)(ii)とは別に,平成26年度より文法を記述する枠組みとしてCCG(Combinatory Categorial Grammar)による自然言語的なアプローチを開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では,自然言語により強く依存して,文法理論を借りてきてそれを直接アプライしてみる方法論と,遺伝的アルゴリズムによる機械学習の方法による文法の統計的発見を目論んでいたが,楽曲の進行は自然言語の品詞並びのように厳格ではないために困難に突き当たった.ところが25年度にボトムアップな木構成から上位カテゴリーを木の深さのレベルで決めるという方向に修正したことにより,従来的な木の構成に則ったまま自然に距離が定義でき,上位階層(木の抽象化)の構成が容易に実現できた.したがって楽曲における木構造の構成はより正確かつ高速になり,楽曲内構造の構成は確固としたプロセスになりつつある.ただし,依然木の中間の深さにあるノードに適当な音楽上の概念を付与しカテゴリーとして命名することに困難を感じており,文法記述の最後の障壁になっている.平成27年度は人間の心理的な命名とは独立に抽象名を課した状態でカテゴリー文法の基本的な形をめざす方針である.
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今後の研究の推進方策 |
前項カテゴリー付与の課題について,(i)自然言語と対比した形でカテゴリーを設定する考え方,すなわち名詞-名詞句あるいは動詞-動詞句-文述語と言ったヘッドの概念に基づく木構造内の階層構成と,(ii)音楽独自から創出されるカテゴリーすなわちトニックからドミナントへの移行によって生じる緊張(tension)とドミナントからトニックへの回帰によって導かれる弛緩(relaxation)の連鎖による文法規則の記述とどのように接点を見出すかが今後の研究の課題である.例えば音楽にもピッチイベント-フレーズ-モチーフ-メロディと言った階層性があるため,これが和声進行の理論のtension-relaxationに結びつけることが今後の目標である.今後の研究の推進の一つの施策として,カテゴリー名と木構造内部のノードの一意ではない「緩い結びつき」を組み込んだCCGを仮定することが考えられる.このために,CCG記述の試行とともに大規模な音楽データベースからの統計的な情報収集が必要となり,大規模かつ長期的な新課題に取り組む.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者への分担金において,人工知能学会全国大会における研究協力者の成果発表に使用予定であった旅費に未使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
分担者の間で進化言語学に関する研究打ち合わせを行うための旅費として使用する予定である.
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