研究課題
基盤研究(C)
1.海洋性アンモニア酸化細菌(AOB)であるNitrosococcus oceani NS58生菌、およびそこから抽出精製したヒドロキシルアミン酸化還元酵素(HAO)を用い、放出される亜酸化窒素(N2O)ガスを定量するとともに、その同位体的性質を分析した。その結果から、好気的な条件の下ではHAOの反応副産物として、また嫌気条件では硝化的脱窒と呼ばれるプロセスによって、それぞれN2Oが生成することが示唆された。この研究は東京工業大学のグループとの共同研究として行い、Biogeosciences誌に掲載予定である。2.NS58のHAOの結晶化と構造解析に成功した。また基質アナログであるアセトアルドキシムとの複合体についても2.0Å分解能の結晶構造が得られた。3.海洋性AOBであるNitrosomonas cryotoleransから、HAOなどの酵素タンパク質を精製し、その機能や構造を分析した。その結果、NS58とN. cryotoleransが進化系統上異なるAOBであることを反映し、その硝化やN2O生成の酵素学的性質にも大きな違いがあることを確かめた。
2: おおむね順調に進展している
主要な2つのN2O生成過程(好気条件下での硝化に伴うN2O生成、および嫌気環境における脱窒菌によるN2O生成)は、放出されるN2Oの同位体的性質によって区別できるとされてきた。しかし、今回のN. oceani NS58を用いたin vivo N2O生成反応の解析(1)によって、AOBが嫌気的条件に置かれた場合、脱窒菌起源のN2Oと同様の同位体的性質を示すN2Oが放出されることが明らかとなった。すなわち、従来の同位体分析に基づくN2Oの起源の推定には大きな問題があることが明らかとなった。また、NS58のHAOの結晶構造解析(2)に成功したことで、HAOによるN2O生成反応の分子機構に関する詳細な議論が可能となった。N. oceani NS58を対象とする研究(1、2)は想定以上に進展しているが、一方で、N. cryotoleransのHAOが非常に不安定であったため、3以降の機能の詳細な分析は難航している。以上の理由により、おおむね順調とした。
NS58 HAOの組み換え体の作成を試みる。結晶構造解析の成功により、その活性中心の構造に基づいてHAOによるN2O生成反応機構が議論可能となった。予想される反応機構を検証するためには、HAOに対する点変異導入実験を行うことが必要となる。しかし、HAOは特異な修飾ヘムを含む複雑な構造を持つ酵素であり、組み換え体の作成はまだ報告されていない。そこで、高分子ヘムタンパク質の発現用宿主として成功例のあるShewanella oneidensisを用いることでHAO組み換え体の発現実験を行う。この実験は、当初設定したテーマから踏み出すものであるが、是非進めていきたい。またN. cryotoleransについては、HAOの生理的電子受容体であるシトクロムc554を新たに均一に精製したので、今年度は遺伝子クローニングと発現系の構築を進める予定である。
計画に従って助成金を使用したが、小額の残余が生じた。次年度に繰り越し、物品費の一部として利用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Biogeosciences
巻: 11 ページ: 2679-2689
10.5194/bg-11-2679-2014