研究課題/領域番号 |
25340006
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
藤原 健智 静岡大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80209121)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 硝化 / 脱窒 / 海洋 / 窒素循環 / 亜酸化窒素 / 温室効果ガス / バクテリア |
研究実績の概要 |
1.以下の昨年度の成果(1)(2)に基づき、HAOが温室効果ガスN2Oを発生する分子メカニズムの詳細な解析を目的として、N. oceani NS58 HAOの組み換え体の発現系の作成に取組んできた。当初用いたShewanella oneidensisを宿主とする既存の系では成功しなかったため、別種のAOBを宿主とする手法の開発に現在取り組んでいる。 (1)アンモニア酸化細菌(AOB)が放出する亜酸化窒素(N2O)ガスが、主としてヒドロキシルアミン酸化還元酵素(HAO)の反応副産物として生成することを、海洋性AOB Nitrosococcus oceani NS58およびそこから抽出精製したHAOを用いて明らかにした(Biogeosciences誌に掲載)。 (2)N. oceani HAOの結晶化と構造解析に成功し、基質アナログであるアセトアルドキシムとの複合体についても2.0Å分解能の結晶構造が得られた(投稿中)。 2.特に耕作地等の富栄養土壌環境においては、従属栄養性の硝化細菌の、硝化作用に対する寄与が大きいことが知られている。従属栄養性硝化細菌の一種であるAlcaligenes faecalisを用いて、硝化に関わるピルビン酸オキシム酸素添加酵素PODの精製と遺伝子クローニングを行った。その結果、PODが解糖系酵素の一つであるアルドラーゼ(クラスⅡ)のホモログであることが明らかとなった。さらにPOD組み換え体を用いた解析の結果、本来の補因子である亜鉛イオンが鉄イオン(FeII)に置換されたため、アルドール反応のかわりにジオキシゲナーゼ反応を触媒する酵素に機能転換したという、極めて興味深い仮説を提案することとなった(投稿準備中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HAOによるN2Oの生成反応に関する研究は本研究計画の主テーマであるが、(1)に述べるように、H26年度は技術的に極めて難しい段階に差し掛かっており、鋭意努力している。一方、H26年度から開始したサブテーマに関しては、(2)に述べるように極めて興味深い成果が得られていることから、総合的にみて、おおむね順調な進展状況にあるとした。 1.硝化作用に伴うN2Oの生成の主たる要因が、AOBが持つ酵素HAOの副反応であることが、純培養したN. oceani、およびそれから精製したHAOを用いた同位体分析や構造解析によって強く示唆された。Geobiosciences誌で提案した、HAOによるN2O生成反応の分子メカニズムの検証は、本研究テーマの中心課題である。そのためにはHAOへの変異導入、機能解析を行うことが必要であり、その前段階としてHAO組み換え体の発現系構築に取り組んでいる。当初試みた、S. oneidensisを宿主とする既存システムでは、残念ながら過剰発現には成功しなかった。その原因は、HAOが、この酵素特異的な翻訳後修飾系をおそらく必要とするためであり、別種のAOBを宿主としてN. oceani HAOを発現させるシステムの構築を現在試みている。 2.一方、サブテーマとしてH26年度から開始した、従属栄養性硝化細菌による硝化作用の生化学的機構の分析に関しては、予想以上の進展があった。従属栄養性硝化細菌A. faecalisから硝化酵素PODを精製し、その分子的、酵素的、および遺伝子的分析を行った。その結果、本来は解糖系に関わる酵素アルドラーゼが、補因子の入れ替えのみによって、酸素添加反応という全く異なる酵素機能を発揮し、PODとして機能していることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画の最終年度であるH27年度は、以下の2項目にテーマを絞り研究を進める。 1.HAO過剰発現系の構築と、これを用いたHAOへの変異導入と機能解析 HAOの活性中心であるP468は、c型ヘムに近傍のチロシン残基が共有結合するという、HAO特有の翻訳後修飾を受けている。前年度中にS. oneidensisを宿主とする発現系の構築を試みたものの失敗に終わった理由は、おそらくS. oneidensisにこの修飾システムが存在しないためと考えている。そこで現在は、Nitrosomonas cryotoleransあるいはNitrosomonas europaeaという、別種のAOBを宿主として、N. oceaniのHAOを発現させるシステムの構築を試みている。両者ともAOBであり、自身のHAOを持っているが、N. oceaniとは進化系統的に遠いため、HAOの配列相同性も50%以下とかなり低い。そのため、キメラタンパク質の出現などの可能性は低いと予想している。現在は、デザインしたプラスミドの効率的な形質転換法について検討している。この手法によってHAO組み換え体の発現が可能になれば、H25 年度にすでに明らかとなっているHAO活性中心の結晶構造に基づいて、周辺のアミノ酸残基に変異導入を行う。変異の酵素機能への影響を解析することで、Geobiosciences誌で提案した、HAOによるN2O生成反応の分子メカニズムを検証する。 2.従属栄養性硝化に関わる酵素PODの構造及び機能の解析 H26年度から開始した、従属栄養性硝化に関わる酵素PODに関する構造及び機能的性質をさらに詳細に解析する。またすでに構築済みの過剰発現系を用いて、活性に影響を及ぼすと予想されるアミノ酸残基への点変異導入実験、さらには結晶化と構造解析についても並行して進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画に従って助成金を使用したが、少額の残余が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に繰り越し、物品費の一部として使用する予定である。
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