アオコを形成するラン藻には有毒物質を生産する株が多くみられるため,上水利用される湖沼や貯水池では公衆衛生上、問題となる。本研究では、世界的にも研究事例が少ないC. issatschenkoiの有毒株の生態と分子系統地理を解明することを目的とし、これまで、本種および本種の有毒株に特異的なマーカーを作成し、分子生物学的に本種の存在の有無を検出する手法を確立した。また、全国123カ所の湖沼でサンプリングを行い、本種は、岡山県と香川県方以東に広く分布しており、それ以西の地域には分布していないか、出現頻度が極めて低いことを明らかとし、北海道、青森、秋田および東京都内の8カ所の湖沼より有毒株10株を含む計118株を単離した。平成27年度は、本種が出現する東京都内の3つの池を対象とした定期観測サンプルの分析と共に、本種の分子系統解析の検討と次世代シーケンサーを使った群集解析を行った。定期観測サンプルの解析の結果、本種は初夏または秋に細胞密度が高くなる傾向がみられた。また、原核生物に特異的なプライマーを用い複数の湖沼を対象として群集解析を行ったが、本種の出現と他の原核生物やその組成との間に明瞭な関係は見られなかった。また、全原核生物に対する本種の割合は、ほとんどの湖沼では0.4 %以下と低く、本種は中栄養から冨栄養の湖沼に広く分布しているが、淡水湖沼ではM. aeruginosaのように単一種で高密度なアオコを形成することは稀であると考えられた。しかし、一部の汽水湖では9.8 %を占め、本種は好塩性種であり、汽水湖で高密度に増殖し優占する可能性が示唆された。汽水域の水産資源の保全のためにも、今後、本種の塩分耐性機構や増殖可能な塩分領域について明らかにする必要がある。
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