研究課題
基盤研究(C)
DNA損傷による場合とは異なる,酸化ストレス,代謝ストレスによるATMを介した特異的な細胞応答を明らかにすることを目的とし,DNA損傷を引き起こさないと考えられる反応性の異なる数種のSH基反応性代謝産物と,ATM経路に影響を及ぼす可能性が報告されている2型糖尿病の治療薬メトホルミン,電離放射線を用いて野生型,ATM欠損細胞を刺激し,それに対する細胞応答の解析を主軸に実験を行った.これにより,酸化ストレスを引き起こす親電子性代謝産物15-Deoxy-Δ12,14-prostaglandin J2 (15d-PGJ2)が、SH基依存的なATMの活性化を引き起こし,ATM非依存的にmTORC1を活性化すること,メトホルミンがATM依存的なAMPKのリン酸化に関与している可能性があることを明らかにした.酸化ストレスによるATMの活性化にはC2991を介したATM間のジスルフィド結合によるホモダイマーの形成が重要であることが報告されているが,15d-PGJ2によるATMの活性化にはホモダイマーの形成は必要ではなく,SH基の修飾がより重要である可能性を見出した.また,これらの研究の予備的実験に関連した派生的な研究により,ATMを介したDNA二重鎖切断のシグナル伝達に必要とされるNBS1がATRを介したDNA複製阻害のシグナル伝達系にも必須であることを見出し,論文の発表を行った.さらに,NBS1がDNA損傷によりATMだけでなくDNMT1と結合すること,ATMがDNMT1タンパク質の安定性やDNAのメチル化を調整するRBの機能に関わっていることを明らかにした論文に携わった.また,ATMの下流に存在するmTORC1の活性化がgliomaを促進する作用があることを示す論文に携わった.
2: おおむね順調に進展している
DNA損傷を介さないATM依存的な細胞ストレス応答と発癌抑制機構の解析を行っていく中で,準備段階の派生的研究において第一著者として1報(NBS1 directly activates ATR independently of MRE11 and TOPBP1. Genes to Cells. 2013 Mar;18(3):238-46),また,関連した研究で3報の論文発表を行っているため.
mTORC1は細胞環境の状態を感知し細胞増殖やリボゾーム生合成,オートファジーの抑制等を行う役割を担っている.mTORC1は解糖系やミトコンドリアの代謝にも深く関与し,細胞の基盤的機能と癌とをつなぐ重要なファクターであると考えられる.さらに,癌幹細胞説が認められるようになりつつある昨今,mTORC1は幹細胞の機能維持と制御に強く関与しているため非常に注目されている.ATMの下流に存在するmTORC1の活性化がgliomaを促進する作用があることを示す論文に携わった中で,15d-PGJ2がmTORC1を活性化している現象を見出した.これらのことから,gliomaにおいて15d-PGJ2の様な酸化ストレスによるmTORC1の活性化の影響やそれに対するATMの関与を明らかにする必要があると考えるようになった.そこで今後は,mTORC1の活性化に着目し,DNA損傷とは異なる酸化ストレス,代謝ストレスによる細胞応答や発癌,癌幹細胞への影響の解析を行っていく予定である.
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