研究課題
ATMはDNA2重鎖切断に対する応答因子として知られているが、我々はこれまで、DNA損傷とは異なる、親電子性代謝産物15d-PGJ2によるSH基反応性酸化ストレスによってATMが活性化することを明らかにしてきた。また、ATMはLKB1-AMPK経路、および、TSC1-TSC2複合体との相互作用を介してmTORC1の活性を抑制することが報告されている。mTORC1は細胞成長やタンパク質合成に加えて、解糖系やミトコンドリア代謝等の代謝制御に関わっている。さらに我々は、15d-PGJ2がATM非依存的にmTORC1経路を活性化することを見出している。これらのことから、ある種の酸化ストレス刺激が活性化するmTORC1を、酸化ストレスによって活性化したATMが抑制する機構が考えられる。酸化ストレスやATM、mTORは幹細胞の維持と密接に関連しているため、ATMやmTORに作用するこのようなストレスが幹細胞へ及ぼす影響を解析した。ヒトグリオーマイニシエーティング細胞では、電離放射線やマイトマイシンCなどのDNA損傷刺激、mTORC1阻害剤のメトフォルミン刺激はスフィア形成能を低下させたが、15d-PGJ2刺激の場合も同様にスフィア形成能を低下させることがわかった。低酸素条件はスフィア形成能に影響を及ぼさなかった。さらに、マウスグリオーマイニシエーティング細胞を用いた結果、mTORC1を活性化した場合はスフィア形成能の増加が、不活性化した場合は低下がみられた。以上より、グリオーマイニシエーティング細胞では、mTORC1の活性化がその幹細胞性を増強させることがわかった。また、15d-PGJ2によるmTORC1の活性化では幹細胞性の増強はみられなかったが、ATMなどの酸化ストレス応答や酸化ストレスによる細胞機能の傷害が影響しているものと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
DNA損傷を介さないATM依存的な細胞ストレスの幹細胞に対する影響と発癌機構の解析を行う中で,mTORC1のグリオーマイニシエーティング細胞に及ぼす影響を明らかにでき、その機構についても解析が進んでいる。また、mTORC1が活性化した悪性度の高いグリオーマにも効果的な候補薬剤を薬剤スクリーニングによって得ることができ、その機構の解析が進んでいる。
前年度に引き続き、グリオーマの幹細胞性維持の機能を、酸化ストレスや代謝ストレス等の様々なストレス刺激を用いて、スフィア形成能等の幹細胞性への影響とその関連因子との機能的関係を解析することで明らかにしていく。また、mTORC1が活性化した悪性度の高いグリオーマに効果的な候補薬剤の作用機構を解析し、明らかにしていく。
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Biochem Biophys Res Commun
巻: 450 ページ: 837-843
10.1016/j.bbrc.2014.06.066.