研究課題/領域番号 |
25340030
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
茂木 章 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80452332)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | DNA損傷トレランス / 複製後修復 / DNA修復 / 相同組換え / ユビキチン |
研究概要 |
本研究は、新しいDNA損傷トレランス機構と考えられる「鋳型乗り換え経路」の分子的実態と機能の解明を行うことを目的とする。 A. DNA鎖間架橋損傷(inter-strand crosslinks; ICLs)の主要な修復経路であるファンコニ貧血経路(Fanconi Anemia pathway; FA経路)の中心因子FANCCとSHPRHとの二重欠損株を作製し、この変異株ではむしろシスプラチン(ICL損傷を起す抗がん剤)の感受性が大幅に減少することを明らかにした。このことは、SHPRHはFA経路と拮抗するICL修復経路として機能する可能性を示唆する。 B-1. 鋳型乗り換え経路に関与する可能性のある新規ヘリカーゼZRANB3の変異株を作製した。ZRANB3変異株はDNA二重鎖切断(double-strand breaks; DSBs)を起すγ線に対して感受性を示さなかったが、ICL損傷を起すシスプラチンに対して軽微な感受性を示した。これはZRANB3が鋳型乗り換え経路において機能するとの仮説と整合する。またヒトZRANB3遺伝子のcDNAクローニングを行った。 B-2.「ポリ(ADP)リボシル化阻害剤の作用点は鋳型乗り換え経路である」との仮説を検証するためにSHPRH/PARP-1及びSHPRH/RAD18/PARP-1の多重変異細胞株を作製した。さらにSHPRH/BRCA1、SHPRH/RAD18/BRCA1の多重変異細胞株も作製した。 C. ユビキチン結合部位をもつTLSポリメラーゼPolη(イータ),ζ(ゼータ),κ(カッパ)の三重変異株を作製した(3TLS変異株)。3TLS変異株は想定通りγ線やシスプラチンに対して軽微な感受性しか示さなかった。このことは損傷乗り越え経路がDSBsやICLsの修復に必須ではないことを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A. SHPRH/FANCC、RAD18/FANCC、SHPRH/RAD18/FANCC多重変異株の作製・解析を優先し、SHPRHのICL損傷に対する機能を示唆する新しい知見が得られた。この計画を優先させたため、当初計画にあげたRAD18/SHPRH二重変異株の染色体断裂率、突然変異率、損傷局所へのユビキチンの集積の解析はまだ完了していない。また、トリSHPRHのcDNAクローニングも行った。 B-1. 計画通りZRANB3変異株を作製した。また、ZRANB3変異株の各種DNA損傷に対する感受性を解析した。ヒトZRANB3遺伝子のcDNAクローニングも完了したが、トリZRANB3遺伝子のcDNAクローニングはまだ行っていない。 B-2. 計画通りSHPRH/PARP-1及びSHPRH/RAD18/PARP-1の多重変異細胞株を作製した。また、これらに加えSHPRH/BRCA1及びSHPRH/RAD18/BRCA1の多重変異細胞株も作製した。RAD18/PARP-1株はすでに作製済みである。RAD18/BRCA1二重変異株は作製を試みたが、ホモ変異株は得られなかった(120クローン中0)。 C. 3TLS変異株としてPOLH/REV1/POLKに加えPOLH/REV3/POLKを作製し、これらのγ線及びシスプラチンに対する感受性を測定した。 以上、おおむね計画通りあるいは優先順位の高くなった代替計画を充分実行した。
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今後の研究の推進方策 |
A. SHPRH/RAD18二重変異株及びSHPRH/FANCC二重変異株の染色体断裂率、突然変異率、損傷局所へのユビキチンの集積などの解析を行う。また、トリSHPRH cDNAの再導入によってSHPRH変異によって見られた表現型が回復するかの検討を行う。 B-1. ZRANB3変異がSHPRH変異と同様にFANCC変異によるシスプラチン感受性を軽減するかを検討するためにZRANB3/FANCC二重変異株を作製する。また、トリZRANB3のcDNAクローニングを行い、ZRANB3変異株で見られる表現型が回復することを確認する。 B-2.作製したSHPRH/BRCA1変異株及びSHPRH/RAD18/BRCA1変異株が、BRCA1単独変異株に比べてPARP-1阻害剤に対して抵抗性であるか否かを検討する。また、SHPRH/PARP-1とPARP-1単独変異株の各種DNA損傷に対する感受性を比較し、これらの因子の作用の同異を検討する。さらに、マウス及びヒト培養細胞核抽出液をもちいた直鎖DNA基質の二本鎖切断末端を保護する活性をモニターするアッセイ系をもちいてPARP-1の作用、DNA末端の形状による効果の違いなどを検討する。 C. 3TLS変異株にさらに鋳型乗り換え経路に関与すると考えられる因子の変異を加えた細胞株を作製し、それらのγ線及びシスプラチン感受性を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験計画を変更し、当初計画にあげたRAD18/SHPRH二重変異株の染色体断裂率、突然変異率、損傷局所へのユビキチンの集積の解析を平成26年度に行うことにしたため。 RAD18/SHPRH二重変異株の染色体断裂率、突然変異率、損傷局所へのユビキチンの集積の解析に使用する。
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