研究課題/領域番号 |
25340037
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
石井 直明 東海大学, 医学部, 教授 (60096196)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | MXL-3 / 放射線 / 酸化ストレス / 飢餓ストレス / 老化 / C. elegans |
研究実績の概要 |
これまで線虫C. elegansの耐性幼虫期に低線量の電離放射線(X線)を照射すると、その虫の正常発生復帰後の寿命が未照射の虫と比べて顕著に寿命が延長することを見出した。この分子機構を明らかにするため、マイクロアレイによるゲノムワイドな遺伝子発現解析を行い、寿命延長に寄与する遺伝子の同定を試みた。エネルギー代謝の多くの遺伝子の発現上昇が見られ、その中でも顕著な上昇が見られた転写因子MXL-3に注目した。 MXL-3はbHLH-LZ (basic helix-loop-helix-leucin zipper)ドメインを有する転写因子で哺乳類Max転写因子のホモログとして知られおり、飢餓ストレス下における脂質代謝に関与していることが報告されている。飢餓状態で栄養がなくなると細胞が弱り、さまざまな病気に罹りやすくなるので、生物が飢餓状態に陥ると、さまざまなストレスに対する防御機構を強めることが分かっている。本年度はMXL-3のストレス応答への関与を詳細に調べることにした。 放射線による細胞障害は生体内の水と反応して発生する活性酸素が大きく寄与すると考えられていることから、生体内に活性酸素を過剰に発生させるパラコートをC. elegansの野生株に曝露させた。MXL-3の遺伝子発現量をリアルタイムPCRで確認したところ、パラコートの曝露時間とともに発現量上昇が認められた。パラコートを添加した寒天培地上でmxl-3が欠損した変異体を飼育するとN2野生株に比べて生存率が低下した。さらに、90%酸素濃度下で寿命測定を行ったところ、寿命短縮効果が顕著に現れた。通常の環境では、mxl-3変異体は長寿になることが報告されている。これらの結果からMXL-3は大気中のような低い酸化ストレスには関与せず、強い酸化ストレスに対してのみ応答している可能性が示唆された。本研究により、転写因子MXL-3は脂質代謝のみならず、酸化ストレス応答にも関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
転写因子MXL-3が飢餓ストレス下における脂質代謝に関係していることが知られているが、今回、酸化ストレスも制御している可能性を強く示唆する新たな発見をすることができた。 MXL-3が過剰発現した虫は不安定なようで作成に困難を極め、またMXL-3が関与すると考えられる遺伝子の突然変異体は致死になるものが多く、分子遺伝的手法を用いた解析が計画よりかなり遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
酸化ストレス下でDNAマイクロアレイを使った網羅的解析から、転写因子MXL-3が制御する遺伝子の特定を行うことで、MXL-3による酸化ストレス制御の経路を明らかにする。 RNAiなどの別の方法での解析を行い、研究の遅れを取り戻す。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子導入線虫の作成に手間取り、費用がかかるDNAマイクロアレイ解析が計画通り進まなかったため
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次年度使用額の使用計画 |
DNAマイクロアレイ解析を優先し、転写因子MXL-3が制御する遺伝子の特定を目指す。ここに繰り越した研究費を使用する
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