研究課題
基盤研究(C)
妊娠マウスを予め低い線量の放射線で照射(前照射)すると、胎児の放射線抵抗性が一過性に高まり、高い線量の放射線(本照射)による胎児死亡と奇形発生が低減する。この現象は、マウス胎児の放射線適応応答として知られているが、マウスの系統に依存していることが分かっている。すなわち、ICR系統やC57BL系統の胎児マウスでは放射線適応応答現象が確認されているが、C3H系統においては観察されていない。本研究においてマウス胎児における放射線適応応答の系統差の要因を探るため、平成25年度はC3H系統マウスの精子と卵子を用いて試験管内受精させ、受精卵をC3H 系統受容体及びICR系統受容体に移植し、仮腹で胎児を発生させた。そして発生した胎児について放射線適応応答の有無を評価した。すなわち、胎生 11 日目に妊娠マウスを 0.05Gyまたは0.3GyのX線で前照射した後、翌胎生12日目に3.5Gyで本照射し、胎生 18 日目に妊娠マウスを安楽死させ、帝王切開術により胎児を採取した。そして生存胎児数と生存奇形胎児数について、前照射+本照射群と本照射群のみ群を比較し、放射線適応応答の有無を評価した。その結果、C3H受精卵を同じC3H 系統受容体の仮腹で胎児発生させた場合は、C3Hマウス自然交配で発生させた場合と同様に放射線適応応答現象はみられなかった。一方、C3H受精卵をICR系統受容体の仮腹で胎児発生させた場合では、C3H胎児に放射線適応応答が認められた。以上の結果から、胎児マウスにおける放射線適応応答には、マウスの母体内因子が関与していることが明らかとなった。この知見は本研究で初めて実証されたものとであり、放射線適応応答の機構の理解において非常に重要と考えられる。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度の計画に照らして予定していた実験をほぼすべて実施した。
平成25年度に実施した実験結果から、マウス胎児における放射線適応応答には母体内因子が関与していることが明確に示された。これに基づいて今後は、母体内因子の同定に向けた実験を中心に研究を進めることとする。
平成25年度の結果を踏まえ、今後は母体内因子の同定に向けた実験を中心に、平成26年度以降順次実施していくこととした。そのため再現性確認実験等、平成25年度に予定していたいくつかの実験を最小限とし、次年度に種々の系統のマウスや諸々の消耗品を購入するため予算として繰越した。ICRマウス(2千円/匹×25匹=50千円)、C3Hマウス(2千円/匹×25匹=50千円)、飼料(60千円)、および試薬類(16千円)を購入する。
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