研究課題
放射線適応応答は、予め低線量放射線を照射しておくことにより、その後の中高線量放射線に対する抵抗性を獲得する生体防御機構である。本研究は、マウス胎児の発生異常を指標とした放射線適応応答に着目し、特に当該放射線適応応答にマウス系統差をもたらす因子を明らかにすることによりその機構解明に迫るものである。本研究では、マウス胎児の放射線適応応答を発現する系統(ICR およびC57BL)の受精卵を発現しない系統(C3H)のメスの子宮に移植することによって得られる胎児、およびその逆の組み合わせで得られる胎児における放射線適応応答を調べる。平成25年度は、C3H 系統マウスの試験管内受精で得られた受精卵から発生した胎児では、C3H系統受容体を仮腹とした場合には放射線適応応答が誘導されない一方、ICR系統受容体を仮腹とした場合にはこれが認められることを明らかにした。平成26年度は、ICR系統マウスの試験管内受精で得られた受精卵から発生した胎児ででは、ICR 系統受容体を仮腹とした場合には、放射線適応応答が誘導された一方、C3H系統受容体を仮腹とした場合には認められないことを明らかにした。平成27年度は、放射線適応応答の系統差と関連する血清因子を探索した結果、EGFとbFGFの活性がC57BL/6JにおいてはC3H/Heより著しく高いことを観察した。これらの因子について、既に構築している胎児マウス指趾原基細胞培養系を用い、放射線適応応答における機能を解析した結果、C57BL/6J細胞をC3H/He血清存在下で培養した時には適応応答が観察されなかった一方、C3H/He細胞をC57BL/6J血清存在下で培養した時には適応応答が観察された。以上のことから、EGFとbFGFは放射線適応応答に機能する母体内環境因子であることを明らかにした。これにより、本研究課題の目的を達成した。平成28年度は、確認のための実験を実施することにより上記の知見を確定するとともに、論文作成のためのデータ整理を行った。
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Journal of Radiation Research
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https://doi.org/10.1093/jrr/rrw133
保健物理