研究課題/領域番号 |
25340042
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
矢島 浩彦 独立行政法人放射線医学総合研究所, 重粒子医科学センター, 主任研究員 (30261895)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | DNA二本鎖切断 / DNA修復 / 相同組換え / end resection / CtIP |
研究概要 |
DNA 二本鎖切断(DSB)の修復系は、主として非相同末端結合(NHEJ)と相同組換え (HR)に大別される。HRの反応は、まず5 ’側のDNA鎖の削り込み(DNA end resection) により3’の一本鎖が露出することから始まる。HR反応には組換えの相手となる姉妹染色分体が必須のため、S期後期とG2期でのみ起こりうると考えられてきた。しかし申請者はこれまでの研究からS期細胞における削り込みの活性に関しては新規の概念が必要であるとの考えに至り、本研究によりこれを検証する。 まず、S期を中心とした各細胞周期における削り込み活性を調べることが本研究の初めの段階として重要である。姉妹染色分体を持たないG1期細胞でも削り込み活性が見られることを示す結果が得られたので、この点を確立するためにさらに検証を進めた。その結果、ヒト骨肉腫細胞U2OSとヒト不死化正常繊維芽細胞1BR-hTERTでは、ともに30 %前後のG1期細胞が削り込み活性を保持している事を明らかにした。さらに、S/G2期での削り込みの始動にCtIPがMre11とともに重要な役割を果たすことが知られているが、このG1期での削り込み活性もCtIPに依存していることを明らかにした (Yajima et. al. 2013)。 CtIPはHR反応の初めの段階で機能するため、削り込み活性の細胞周期における制御を解明する上でも重要な因子である。その機能に関する研究を進める過程で、放射線照射後の長時間に渡ってCtIPがフォーカスを形成していること、低レベルの損傷誘導リン酸化状態を維持していること、DNA二本鎖切断部位でCtIPタンパク質がターンオーバーしており積極的なリクルートが絶えず続いていると考えられることなどが明らかになり、削り込みの始動以外の機能を持っていることが強く示唆された。この知見に関しても投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞周期における削り込み活性の制御を明らかにしていくために、まず G1 期(複製開始以前)での活性をはっきりとさせることが重要であるため、当初の研究計画には明示されていない検証に取り組み、この成果を含めて論文発表に至った。また、この過程における最重要因子の一つである CtIP の未知の機能を見いだせる可能性が得られたため、この解析にも時間を費やした。従って、当初計画の実行程度という観点では「遅れ」ともとれるが、予想しなかった新たな知見も得られて次の投稿準備も進んでおり、この分野における進展という尺度においては「おおむね順調に進展している」と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究で得られ投稿準備中となっている CtIP の未知の機能に関して、早期の論文発表を図る。さらに、この解析を進展させて S 期を中心とした削り込み活性の制御機構に関する新規の知見を求める。具体的には、放射線に誘発されて長時間に渡って継続する低レベルリン酸化の部位を探索する。また、その時点でCtIPがフォーカス形成中に結合すると考えられるタンパク質の探索も進める。これらの解析は当初計画時点では得られていなかった知見に基づくものだが、本課題を推進するに当たって重要な基盤的情報をもたらすと期待される。 また、当所では共通機器として新たに高性能の細胞イメージャー(In Cell Analyzer 2000)が導入され使用可能になった。これを利用することで各細胞周期における削り込み活性の定量化を、従来の計画よりも迅速かつ高い信頼性を持って行えると考えられる。まずそのプロトコルを確立し、そののちに必要な定量化データを蓄積する。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度では、予備的な実験に用いてきた購入済み試薬を活用できたことや汎用消耗品のストックもあったことから、出費をある程度抑えることができた。また、論文執筆等にも時間を振り向けたため実験に振り向ける時間が予定よりもやや短くなった等の状況もあり、支出額が計画よりも少なくなった。 2年目においては新規の実験・解析等を開始する予定で、必要な器具類の購入や新たに必要になる試薬やキット類が多く見込まれるため、汎用消耗品代なども含めて繰り越し分を振り向ける計画である。
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