研究課題
DNA二本鎖切断(DSB)は、主として非相同末端結合(NHEJ)と相同組換え(HR)によって修復される。HRの反応は、5’側のDNA鎖の削り込み(end resection)により3’の一本鎖が露出することから始まる。HR反応には姉妹染色分体が必須のため、S期後期とG2期でのみ起こると考えられてきた。DNA未複製領域に生じたDSBの修復に関しては新規の概念が必要であると考え、本研究を始めた。まず、DSB構造の複雑さが修復経路選択の重要な要因であることを明らかにし、複雑なDSBを生じさせる高LET重粒子線照射後は、G1期細胞の30 %前後がCtIP依存的なresection活性を示す事も明らかにした(DNA Repair, 2013)。CtIPはresection反応の始動の段階で機能するため、resection活性の細胞周期制御を解明する上でも重要な因子である。CtIPがresectionの進行後にも何らかの役割を持っている可能性も報告した(Mutat. Res., 2015)。resection後の修復過程の解析に重要な知見になると期待される。さらに、CtIP機能の解明を進めるために相互作用タンパク質の探索を進め、幾つかの候補が得られた。80%以上がresectionを引き起こす、重粒子線誘発の複雑なDSBがどのような経路で修復されているかを検討するために、重粒子線誘発HPRT遺伝子変異細胞株を分離した。ゲノム遺伝子内部を欠損している株のゲノム欠失部の接続配列を解析するためにエクソン領域のPCRを行ったところ、変異株の大多数は全てのエクソンを保持しているか逆に全てを失っているかのどちらかだった。修復の痕跡を解析するためには、さらに多くの変異株を分離する必要があると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
細胞周期におけるresection活性の制御を明らかにしていくために、まず G1 期(複製開始以前)での活性をはっきりとさせることが重要であり、重粒子線の特質を活用して検証を進めて成果を論文発表するに至った(DNA Repair, 2013)。G1期のCtIP依存的なresection活性に関しては、2014年になって少なくとも海外の2グループから同様の結果の報告が続いた。G1期細胞でもHRの初期過程(resection)によってDSBが処理される場合のあることが明確となり、本研究は先駆的な仕事となった。また、G1期でのresection活性にも重要なCtIPの新規の機能発見にも繋がる仕事も論文発表できた。複雑なDSBの修復経路を解明するために、CtIP機能とゲノム中のDSB修復の痕跡の解析を進めており、未複製DNA領域におけるDSB修復過程の解明という課題において「おおむね順調に進展している」と考えられる。
これまでの研究で得られたCtIPの未知の機能に関する解析を進展させて、削り込み活性の制御機構に関する新規の知見を求める。具体的には、CtIPがフォーカス形成中に結合すると考えられるタンパク質の探索と解析を進めている。これらの解析は当初計画時点では得られていなかった知見に基づくものだが、本課題を推進するに当たって重要な基盤的情報をもたらすと期待される。また、高LET重粒子線でゲノム中に生じた複雑なDSBの修復の痕跡の解析を進め、修復過程を明らかにする。さらに、修復経路選択の結果として経路に特有なシグナルが増強し細胞運命に影響を与える可能性に関して解析を進めている。
相同組換え(HR)によるDSBの修復がS/G2期のみで機能できるとの前提であったが、G1期細胞でもHRの初期過程(resection)によってDSBが処理される可能性が見出され、まずこの点を検証する必要性が生じた。結果的にG1期でのresection反応が証明でき、論文発表した。このように研究の展開に伴って追加実験を実施し、目的達成のために期間延長が必要となり、その間に必要な研究費を確保した。
必要な実験の遂行と論文発表のための費用として使用する予定である。
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Oncotarget
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10.18632/oncotarget.6659
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10.14338/IJPT-15-00020.1