研究課題
離乳後のラットを3種の異なる環境(単独飼育、ケージあたり2匹での飼育、大型ケージで遊具と共に10匹で飼育)で6週間飼育した後、トリメチルスズを腹腔内投与した。投与後のラットは攻撃的になったので、すべて単独飼育で1週間飼育した。単独飼育群、2匹飼育群では、体重低下、副腎重量の増加、自発運動量の亢進が見られた。これらは既報にあるトリメチルスズ毒性と一致する。また、両飼育群間に有意差は見られなかった、しかし10匹飼育群では体重や副腎重量の変化が生じず、毒性への抵抗性が見られた。これは、飼育環境が毒物作用に影響を与えるという知見である。さらに、投与1週間後に海馬のニューロン数を計測すると、CA3領域でニューロンの脱落が見られ、単独飼育群、10匹飼育群、2匹飼育群の順に減少が大きかった。10匹飼育群でもニューロンへの細胞毒性は2匹飼育群より増加しており、体重変化などで見られた毒性への抵抗性はここでは観察されなかった。単独飼育群は、トリメチルスズによる海馬毒性が顕著に増強しており、これは昨年見出したBDNFの含量の変化に起因していることが示唆された。上記の実験結果より、飼育環境はトリメチルスズのような毒物の作用に、大きな影響を与える事が示された。毒性の増強という視点で見ると、神経への影響と、体重変動や副腎重量への影響とで異なる効果が見られた。
2: おおむね順調に進展している
異なる環境で飼育したラット間では、神経毒性を持つトリメチルスズへの感受性に大きな差異が見られた。その差異は、海馬ニューロンの脱落として検出される神経毒性と、体重や副腎の重量の増加として検察される効果と異なっていた。このように、当初の研究計画にほぼ沿ったスケジュールで研究が遂行できており、予想を超える研究成果も得られている。よって、研究の達成度は、おおむね順調である。
飼育環境による神経毒性への抵抗性の差異について、その分子メカニズムを探る。神経保護効果のある脳内のステロイドホルモン、特にエストラジオールやアロプレグナノロンに焦点を当て、その脳内濃度の変動によって、飼育環境の影響を説明できるかどうか、解析を行う。さらに、別の神経毒物であるメチル水銀も用いて、このような神経毒性への影響が観察されるかどうか、脳内神経保護分子の濃度の変動などと関連付けながら、詳しく解析を行う予定である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)
Life Sci.
巻: 99 ページ: 24-30
doi:10.1016/j.lfs.2014.01.061
Endocr Res. 39:168-72 (2014).
巻: 39 ページ: 168-172
DOI: 10.3109/07435800.2013.875563
Nat Commun. 5:3634 (2014).
巻: 5 ページ: 3634
doi: 10.1038/ncomms4634
Journal of Steroid Biochemistry & Molecular Biology
巻: 145 ページ: 85-93
doi:10.1016/j.jsbmb.2014.10.002