研究概要 |
世界保健機構 (WHO)の報告によると、皮膚がん罹患率は世界規模で増加傾向にあり、年間皮膚がん発症数は約300万人達する。皮膚がん罹患率の上昇には、オゾン層減少による紫外線の増加、並びに平均寿命の延長が寄与している事は疑いの余地はないが、申請者はこれらに加えて化学物質との複合影響が一部寄与しているのではないかと考える。 紫外線発がんの主要因は、紫外線曝露により生成するシクロブタンピリミジンダイマー等のDNA損傷であり、このDNA損傷の生成率・修復率は発がんイニシエーションの観点から重要であるが、農薬作用によりヒストン修飾が変化した際に紫外線が照射されれば、DNA損傷生成率・修復率が変化し、変異の上昇に結びつく可能性がある。加えて、一部の農薬はエストロゲン様作用を示す事がよく知られており、細胞生存シグナルの増強、及び細胞増殖を促進するがん遺伝子の発現を介して、農薬作用が皮膚発がんをプロモーションする可能性がある。 本研究では、農薬が紫外線によるDNA損傷生成・修復を変化させるのか否かをヒストン修飾変化の観点より検討し、その後の発がん促進作用を示すのか否かを農薬のエストロゲン様作用に着目して検討する事で皮膚がん罹患率上昇の原因の一端を解明することを目的とした。 本年度は、農薬が紫外線によるDNA損傷生成・修復を変化させるのか否かを検討する前に、ヒストン脱アセチル化阻害剤としてよく知られているsodium butylateを用い、細胞内ヒストン修飾状況を変化させた状態で紫外線(UVC filter法)を照射、紫外線誘導DNA損傷部位における各種DNA修復因子 (NER因子: DDB2, XPA, TFIIH, XPF, XPG, PCNA)の集積具合について解析した。あるNER因子は細胞内ヒストン修飾状態が変化すると、紫外線誘導DNA損傷部位へ集積しにくくなる可能性が示唆された。
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