研究課題/領域番号 |
25340056
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
堀井 雅恵 金沢大学, 医学系, 博士研究員 (50644259)
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研究分担者 |
神林 康弘 金沢大学, 医学系, 講師 (20345630)
中村 裕之 金沢大学, 医学系, 教授 (30231476)
人見 嘉哲 金沢大学, 医学系, 准教授 (70231545)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アレルギー / 化学物質の健康影響 |
研究概要 |
近年、黄砂・PM2.5・ディーゼル排気粒子等の大気汚染物質が注目されており、その健康影響が懸念されている。これまでにマウス等を用いた動物実験で黄砂の気道投与によるアレルギーの増悪が報告されているが、マウスと人では特に免疫系、代謝系、遺伝的多系の点で違いがある。人に侵襲的な負担をかげずに人への化学物質の暴露影響を調べる方法として、末梢血を生体外で刺激するex vivo試験が注目されている。本研究では実際に大気粉塵を採取し、集塵フィルターを培地や血清で洗浄したものをヒト末梢血に対する刺激物質として用いることで、実際の暴露に近い状況を再現し、大気汚染物質の免疫毒性を評価する方法を開発することを目的に研究を計画した。 まず、以前の黄砂飛来日の集塵フィルターから有機溶媒で抽出した成分で、ヒト末梢血中の好塩基球のアレルゲン応答が増強されるかどうかを2-3名から採取した末梢血を用いて調べた。好塩基球活性化の指標としてCD63陽性細胞の割合とCD203cの発現上昇をフローサイトメーターで解析した。アレルゲン(anti-IgE)単独で添加した場合とアレルゲンと抽出成分を添加した場合(終濃度で多環芳香族炭化水素1ng/mL以上含む)で違いはなく、アレルゲン応答への増強効果は見られなかった。 また、大気汚染に関わる物質ではないが、薬剤や食品に含まれるアスピリンがアレルギー反応を増強させるとの説があるので、モデルとして、アスピリンによる好塩基球のアレルゲン応答の増幅を3名の末梢血で調べた。1mMのアスピリン添加でCD63陽性細胞の割合が上昇する例も見られたが、全体としてはアスピリン添加の有無で有意な違いは見られなかった。また、日を変えて同じ測定を繰り返した場合に再現性が悪く、末梢血好塩基球活性化試験では、化学物質のアレルゲン応答に対するわずかな増強効果を検出するのは難しいと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度は、ハイボリュームエアサンプラーによる大気粉塵のフィルター捕集と捕集された粉塵に含まれる多環芳香族炭化水素(PAH)のHPLCによる分析、PAHあるいは粉塵抽出物がヒト末梢血中の好塩基球のアレルゲン応答に及ぼす影響の解析、PAHあるいは粉塵抽出物がヒト上皮培養細胞のサイトカイン分泌に及ぼす影響の解析を行う予定であった。 大気粉塵のフィルター捕集と粉塵に含まれるPAHの分析については順調に進んでいる。平成25年度中、粉塵採集地への黄砂の飛来は観測されなかったが、平年に比べて冬季のPM2.5が高く、その時期の粉塵をフィルター捕集することができた。PM2.5が高い時期は含まれるPAHが多い傾向が見られた。 粉塵抽出物がアレルゲン応答に及ぼす影響の解析については、フローサイトメトリーによる好塩基球活性化試験を行い、大気粉塵抽出物の添加によってアレルゲン応答が増幅されるかどうかを調べたが、増幅は見られなかった。また、モデル実験としてアスピリンの添加による末梢血好塩基球のアレルゲン応答の増幅を調べたが、同一の人の末梢血で日による実験結果の違いが大きく、再現性が悪かった。解析する細胞数を増やして誤差を少なくする、周辺温度を一定にするなどの工夫を行ったが、日によるデータのばらつきは改善されなかった。末梢血を用いた好塩基球活性化試験では、化学物質のアレルゲン応答に対するわずかな増強効果を検出するのは難しいと考えられた。現在、大気汚染物質のアレルゲン応答への影響の解析に関しては、まず、ヒト培養白血球細胞を用いることにし、培養を開始した。 また、上記の好塩基球活性化試験の条件検討に時間を費やしたために、予定していたヒト気道上皮培養細胞のサイトカイン分泌に対する粉塵抽出物・化学物質の影響を調べる実験に着手できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究期間中に粉塵採集地で秋季~春季に高いPM2.5濃度が観測され、その時期の粉塵をフィルター捕集することができたので、集塵フィルターからの抽出物を用いてアレルギーに関連する細胞や気道上皮細胞に対する影響を調べる。HPLCによる多環芳香族炭化水素(PAH)の解析を引き続き行い、PM2.5の濃度との関係を明らかにする。 粉塵抽出物、化学物質のアレルギーへの影響を調べる方法として、これまで検討してきた末梢血を用いた好塩基球活性化試験は、同一の人の末梢血の測定において日によるデータのばらつきがあり、この方法では化学物質のアレルゲン応答に対するわずかな増強効果を検出することは難しいと考えられた。また、好塩基球は末梢血中で数の少ない細胞であるため、精度を上げるためには多くの血液が必要となってしまう。そこで、大気汚染物質のアレルゲン応答への影響に関しては、まず、ヒト培養白血球細胞を用いて検討することにした。好塩基球・好酸球へ分化可能なKU812細胞を用い、粉塵抽出物や化学物質の好塩基球アレルゲン応答や好酸球の活性化への影響について検討する。これらの細胞の応答に対して粉塵抽出物・化学物質の影響が見られないようであれば、B細胞・T細胞などのリンパ球系の培養細胞を用いて、これらの細胞に対する大気汚染物質・化学物質の影響を調べる。また、昨年度に予定していたヒト気道上皮の培養細胞のサイトカイン分泌実験に着手し、大気汚染物質がサイトカイン分泌に及ぼす影響を調べる。 平成26年度以降に気管支ぜんそく患者やアレルギー性鼻炎患者に研究への協力をお願いし、末梢血を用いた好塩基球活性化試験を行って化学物質の影響を調べる予定であったが、予備実験において末梢血を用いた好塩基球活性化試験が困難であると考えられたので、培養細胞で方法を確立後、規模を縮小して行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
ヒト気道上皮培養細胞株と培養に必要な物品を購入予定であったが、末梢血を用いた好塩基球活性化試験の検討に時間を取られたため、気道上皮培養細胞の実験に着手できず、細胞株と培養に必要な物品が未購入となった。 また、年度後半に末梢血の代わりに好塩基球に分化可能なヒト白血球培養細胞の培養を開始したが、分化の確認に必要なマーカーの抗体等が輸入品で納期が年度内に間に合わなかった。 培養細胞を用いた実験に関して、ヒト気道上皮細胞などの細胞株(計20万円程度)、細胞培養に必要なプラスチック類(計30万円程度)、薬品類(計30万円程度)、刺激剤として用いる蛋白と分化や活性化のマーカーとなる抗体(計40万円程度)、サイトカイン測定のためのELISAキット(計30万程度)を購入する。大気粉塵の捕集と含まれる多環芳香族炭化水素(PAH)の分析に関して、捕集のためのフィルター(3万円×4箱)と抽出・分析のためのガラス製品(10万円)を購入する。情報収集と成果発表のための出張費は、東京2-3日×2回(6万円×2回)を想定した。(平成25年度未使用額:約24万円+平成26年度請求額:160万円 =計 約184万円)
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