研究実績の概要 |
昨年度(平成25年度)の調査研究で,日本最大級の温泉地である別府温泉を流れ下る,朝見川,境川,春木川,平田川,新川の5つの河川の最下流非感潮域において春・夏・秋・冬の都合4回の河川流量観測を行い,河川水の流量と化学分析データを掛け合わせることで主要化学成分の流出量を算出し,それぞれの観測日の日流出量データをもとに年間流出量の推定を行った結果,河川水によるClとNa,Kの流出量(全河川の合量)は,それぞれ24.6ton/日,17.4 ton/日,2.5 ton/日であり,沸騰温泉からの流出量とほぼ一致する(それぞれ26.8 ton/日,17.8 ton/日,2.2 ton/日;由佐ほか,1975)という成果を得た.今年度(平成25年度)は,同最下流非感潮域において春・夏・秋・冬の都合4回の河川流量観測と河川水中の微量元素(As, B, V, Mn, Co, Ni, Cu, Zn, Ga, Ge, Rb, Sr, Mo, Cs, Ba, Wなど)の化学分析を行い,河川水の流量と化学分析データを掛け合わせることで主要化学成分と同様に年間の流出量の推定を行った結果,温泉に由来するAs, Li, Cs, B, Rbが1年間にそれぞれ4.3 , 34,0.4,82,5.4 トン河川へ流出していることが明らかとなった. 2年にわたる調査研究の結果,別府の河川は湯気を上げ絶えず湧出している沸騰泉からの温泉排水の寄与が大きく,沸騰泉の温泉水の適正利用が河川水質の保全にとって重要かつ有効であることを明らかにすることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究費申請段階に掲げた3つの具体的研究課題のうち初年度に十分な成果をあげられなかった〔Ⅱ〕河川へ流入する温泉成分のうち,生態系に対して有害なものと,人にとって有用なものが1年間を通してどのくらい流出しているかという量的な状況を把握する.さらに後者については,有価金属市場の取引額を参照して,有用金属元素を温泉(排)水から回収した場合の経済的な試算を行う,に重点的に取り組んだ.その結果,次のことを明らかにした. (1)河川水中の微量元素について,前年度の研究で全量が温泉排水由来であることが示されたLiの濃度との相関関係を検討したところ,相関係数r2値が0.9を超える元素はAs, B, Cs, Ge, Rbであり,これらは温泉排水由来であると結論された.これらは沸騰泉に特徴付けられる元素であり,「別府の河川は湯気を上げ絶えず湧出している沸騰泉からの温泉排水の寄与が大きい」とする前年度の結論と符合する.(2)河川水の流量と化学分析データから微量成分の流出量を算出したところ,温泉排水由来で生態系に対して有害であるAs,Bは年間でそれぞれ4.3トン,82トンの河川への流出があり,経済的に有用なものであるRb, CsおよびLiの年間流出量はそれぞれ5.4, 2.9, 34トンであると見積もられた.また,“温泉由来の金属資源”をどのくらい流失させているかを実感するために,有価金属市場の取引額を参照し,Rb, CsおよびLiの河川への流出量をおおよその金額で表すと,それぞれ100億円,1000万円,10億円にものぼることが示された. 以上の研究成果は,沸騰泉からの温泉排水を集めて金属市場での取引額の大きなLi, Cs, Rbなどを回収し,それで得たお金で同じく沸騰泉に多く含まれるAsやBなどの有害元素除去の設備や施設の整備を行うことで,別府温泉地域の河川の水質保全を一挙両得・地産地消的に解決できる可能性があるということを具体的にイメージできる基礎資料となりうる.
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