最終年度は,温泉成分や浮遊珪藻を多量に含んだ別府の河川水が海洋(別府湾)に流出した後にどのように挙動するのかという未知の問題に挑戦するための準備・前調査として,別府(温泉)に隣接する別府湾北部の日出の沖合の地下水が海底に湧出するとされる海域で,海底地下水湧出(SGD)の検出に有用とされているラドンえい航観測を行った.その結果,推定されていた湧出箇所を含む複数個所において地下水湧出を示すラドン高濃度域を見出し,ラドン等収支に基づいた海底地下水湧出量の推定を行ったところ,当該地域の陸域の地下水湧出量11×103m3/dayのおよそ10倍もの地下水が海底に流出していることが明らかとなった.また,SGD検出域における潜水調査によって直接採取した海底湧出地下水は,陸域の井戸水と同様な水質・同位体組成を有していることを初めて示した.さらに,潜水調査時の目視観察で,SGD周辺に多くの小型の魚類が生息していることを確認でき,海底湧出地下水と海の生物生産の強いつながりを強く予感した. 本年度はさらに,別府(温泉)に隣接する海域にも乗り出し,ラフなラドンえい航観測も実施した.日出沖の平均的なラドン濃度の数倍以上にもなる高濃度域が検出され,かつて存在した天然砂湯や地下の温泉流動経路の終端域の一部と一致することが判明し,海底温泉湧出の存在が強く示唆された.前年度までに行った河川への温泉排水流出の研究・珪藻の生育状況および温泉成分との関係性に関する研究によって,温泉水は生態系へ確実に影響を与えていることが示されたので,海底温泉湧出と海の生物生産性の関係に関する研究へ大きくはずみをつけることができたと考える.
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