研究実績の概要 |
黄砂発生源の砂漠化の進行により、黄砂の飛来頻度および規模は増大している。また、アジア地域の経済発展に伴う工業化、自動車の普及に伴い大気汚染が増大し、その影響が他国へ越境する越境大気汚染が懸念されている。しかし、黄砂や大陸からの越境大気汚染の健康影響について本邦での調査報告は少ない。ライダー(LIDAR: Light Detection And Ranging)は、レーザー光線を上空に発射し、浮遊する粒子状物質に反射して返ってくる光を測定・解析することが可能である。偏向レーザー光は球形の物体により反射されると偏光のままだが、非球形の物体により反射されると偏光状態が乱れる。一般的に大気汚染物質は球形であり、黄砂粒子は不整形であり、LIDARは黄砂粒子と粒子状大気汚染物質を区別し、リアルタイムに測定することが可能できる。一方で、LIDARは粒子径を区別することはできない。本研究ではLIDAR観測データを活用し、黄砂粒子、粒子状大気汚染物質の短期曝露が児童の呼吸機能に与える影響について調査を行った。 9歳から12歳の児童を706名に対象に、2014年1月から5月の登校日の朝礼時にピークフロー・メーター(PEF: peak expiratory flow)により呼吸機能測定を実施した。黄砂粒子、粒子状大気汚染物質とPEF値の関連について線型混合モデルで解析を行った。黄砂粒子が0.02/km上昇する毎にPEFは0.38 L/min (95% confidence interval [CI], 0.11 to 0.65, P = 0.005)、粒子状大気汚染物質が0.06 /km上昇する毎に0.48 L/min (95% CI, -4.66 to -4.71, P = 0.005)変動しており、黄砂粒子および粒子状大気汚染物質の上昇によって呼吸機能はむしろ増加していた。
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