研究課題
基盤研究(C)
河川工作物が淡水の魚類個体群に及ぼす影響について,とりわけ遡上遊泳能力に乏しい底生魚カジカ大卵型(以下カジカ)を対象として,工作物が連続する河川流程内で個体群が不均等に細分化される実態を評価するとともに,形態表現形質の分析を通じて,細分化がカジカ個体の適応度に及ぼす影響を評価した。まず千曲川水系支流の取得済標本を用いて,外部形態形質分析および遺伝的分析を行った。カジカの遊泳や定位と関連する左右の胸鰭条数と腹鰭条数の不均一さ(Asymmetric score)は,下流からの累積堰数の増加につれて増加する傾向が認められた。上流域の左右の胸鰭・腹鰭条数が不均一な個体(Asymmetric score > 3)の体長-肝臓重量残差は健常個体よりも有意に低く,これら遊泳関連形質の不均一性によって個体にもたらされる適応度上の不利益は,上流域の集団で顕著であることが示唆された。次にカジカの集団の遺伝的多様性を評価する高感度の遺伝的ツールとして,マイクロサテライト(STR)濃縮ライブラリーの作成と次世代マルチプレックスシーケンシングを通じて,カジカに有効な20遺伝子座の取得に成功した。これら20遺伝子座を基に算出した流程集団の遺伝的多様性(Allelic Richness)は,Asymmetric scoreに有意な負の影響を及ぼしていることが明らかになった。さらに茨城県那珂川水系では標識再捕法を用いて河川工作物の上下区間の移動調査と遺伝的分析試料の採取を継続的に行うとともに,福井県嶺南河川においても外部形態形質と遺伝的分析に資する試料を取得済であり,今後も学術知見の集積,公表化が期待される状況にある。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り,茨城県那珂川水系と福井県嶺南河川において,外部形態形質分析及び遺伝的分析に資する試料が取得できたこと,またカジカの流程集団の遺伝的多様性を評価する上で不可欠な高感度のSTRマーカーの開発に成功し,各河川流程集団における今後の遺伝的分析の進展が見込めることから,概ね順調に推移しているものと考えられる。
カジカの流程集団の遺伝的多様性を評価する上で不可欠な高感度のSTRマーカーが実用化されたため,今後は河川工作物が連続する各河川流程集団の個体群構造,移動,外部形態形質と遺伝的多様性との関連性について総合的な評価を行う。さらに河川工作物の落差軽減措置前後での遺伝的多様性の比較についても移動,外部形態形質,遺伝的多様性から多面的な評価を行う。これらの知見を基にして,生物多様性の維持と両立する河川工作物のあり方について,具体的かつ実現可能な保全策の提案の構築を目指す。
物品購入の見積り金額が当初の出金予算金額よりも若干低く抑えることが出来たため,次年度使用額(B-A)が若干生じた。生じた当該助成金は,翌年度請求予算と合わせて,調査に必要な消耗品や試薬の購入に適切な形で使用する予定である。
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