研究課題/領域番号 |
25340063
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
棗田 孝晴 茨城大学, 教育学部, 准教授 (00468993)
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研究分担者 |
井口 恵一朗 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 教授 (00371865)
武島 弘彦 総合地球環境学研究所, 研究高度化支援センター, 助教 (50573086)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 底生魚 / カジカ / 河川工作物 / 生物多様性 / 生態的移動弱者 |
研究実績の概要 |
河川工作物が淡水の魚類個体群に及ぼす影響について、とりわけ遡上遊泳能力に乏しいカジカ大卵型を主対象として生態学的・分子生態学的研究を行い、今年度は以下の知見を得た。 1)カジカ属魚類の流程分布 藤井川の藤井川ダムの下流部にはカジカ小卵型が生息するが、流程の最初に出現する農業用取水堰(落差:>1m)によって遡上が阻害されていることに加えて、この堰の上流区間の瀬ではオオヨシノボリの生息が確認されたことから、底生魚類の中でもカジカ属魚類の遡上能力の低さが示された。また、太平洋に流入する茨城県北部の4つの独立河川を対象として、各河川最下流部に設置された堰の上下区間での魚類相調査を夏期に行い、カジカ小卵型当歳魚の遡上が最初の堰で妨げられていること、また堰上区間で少数ながら採捕された個体はいずれも1歳魚以上の大型個体であったことが明らかになった。 2)カジカ大卵型の河川間及び河川内における遺伝的集団構造 藤井川ダム上流部の本・支流および近接する2河川の計10地点202個体を対象として、大卵型の遺伝的集団構造の解析を行い、ミトコンドリアDNA(mtDNA)調節領域前半部(406bp)の塩基配列を決定した。標本集団からは9個のハプロタイプが検出され、ハプロタイプ多様度や遺伝的集団構造には、3河川間で相違がみられた。また藤井川ダム上流の中流部区間では、他水系由来のハプロタイプを持つ移入個体の存在が確認された。他水系由来のハプロタイプは、流程内に複数の堰が存在する上流部区間では検出されなかったことから、遡上能力の乏しいカジカ大卵型では、放流による移入個体の上流域への侵入を堰が結果的に防いでいる皮肉な様相が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
藤井川の流程に沿ったカジカ属魚類の生息分布状況と、mtDNAをマーカーとした遺伝的解析を通じて、他水系由来の移入個体の存在を明らかにすることができた。他水系由来個体の放流による遺伝的撹乱を最小限に食い止める具体的な保全策の構築が期待されることから、概ね順調に推移しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
藤井川および周辺河川におけて、流程内の堰の設置状況を詳細に把握するとともに、堰の上下区間におけるカジカ大卵型の遺伝的解析試料の採取を網羅的に行い、ミトコンドリアDNA及び高感度のSTRマーカーを用いた河川流程集団の遺伝的多様性や外部形態形質の多面的な評価を行う。これらの知見を基にして、生物多様性の維持と両立する河川工作物のあり方について、具体的かつ実現可能な保全策の構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入及び旅費の金額が当初の出金予算金額よりも低く抑えることが出来たため、次年度使用額(B-A)が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
生じた当該助成金は、翌年度請求予算と合わせて、調査に必要な消耗品や試薬類の購入に適切な形で使用する予定である。
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