研究課題
河川工作物が淡水の魚類個体群に及ぼす影響について,特に遡上遊泳能力に乏しいカジカ大卵型を主対象として生態学的・分子生態学的研究を行い,今年度は以下の知見を得た。1)カジカ大卵型と底生魚類との種間関係河川性の底生魚類で生息分布域が重複するカジカ大卵型とアカザ二種の採餌行動,移動,定位点利用及び食性を実験池で昼夜にわたり観察した.活動性は両種ともに夜間で活発であった.カジカ大卵型は待ち伏せ型の流下物・ベントス食者で,ユスリカ科,トビケラ目幼虫に加えてカゲロウ目幼虫も選択的に捕食した.いっぽうアカザはベントス食者で池中を広く動き回り,専らユスリカ科とトビケラ目幼虫を捕食した.これら二種間での明瞭に異なる索餌モードは,種間で食性が重複する場合においても彼らの同所的な分布を可能にし得ることが示唆された.2)カジカ大卵型の河川間及び河川流程における遺伝的集団構造河川工作物が複数存在する那珂川水系相川の流程約4 Kmに沿った4地点129個体および藤井川ダム上流1地点37個体を対象として,15種類のマイクロサテライトDNAマーカーに基づく遺伝的集団構造の解析を行った。Allelic richnessは相川の最上流部で最も低く,下流部で最高値を示した。AMOVAの結果から,相川の4地点間には有意な違いが認められ,集団間の遺伝的分化の度合いを示すペアワイズFst値は,河川間(藤井川と相川全4地点間)に加えて相川の最上流部と中流および下流間で有意であった。以上のことから相川の上流から下流の流程に沿って,微細ながらも遺伝的な異質性が存在する様相が示された。
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