研究課題
2010年の福岡高裁判決は、2013年12月20日より5年間にわたり南北排水門を開放し、海域や調整池内の調査を実施する事を命じ、この判決は確定した。本研究はこの確定判決の実施を前提に立案されたものである。しかし、判決が命じた期限から2年半経過した2015年5月20日現在、長崎地裁の開門差止仮処分判決を理由に開門調査は実施されていない。憲政史上、国が確定判決を履行しなかった例はないとされ、いずれは実施されると考えられるが、自然科学研究者の立場からは司法や行政の判断を見守る以外に術が無い。しかしながら、開門調査の実施が潮流に影響を与え、赤潮や貧酸素水塊の発生頻度に影響を与えるか否かの調査には数年にわたる調査が必要と考えられ、そのために福岡高裁判決が5年間の開放を指定している一方で、本研究が対象とする調整池内の水質、底質、底生生物および調整池内外の底泥中ミクロシスチン含量に関しては、制限開門であったとしても、短期間で劇的な変化が期待される。25年度と26年度は、従来のデータを積み重ねることに加え、これまでの知見の論文化および学会発表に取り組んできた。その中で、排水直後に諌早湾内全域の底泥中ミクロシスチン表層のミクロシスチン含量の上昇を直接確認した調査結果を得た。これにより、諌早湾内に広く広がる残留ミクロシスチンが調整池由来と確証する事ができた。一方、海域に残留しているミクロシスチンの分解過程を明らかにする研究の前段階として、RT-qPCRによって表層水のミクロシスチン合成遺伝子mcyB,Dの定量をおこなった。
3: やや遅れている
前記「研究実績の概要」に述べたとおり、確定判決である開門調査が期日をすぎても実施されていないため、核心部分の調査が実施できていない。しかし、自然科学研究者の立場としては、この状況を見守る以外に術はない。しかし、本研究にとっては、短期の制限開門であっても一定の成果が期待されるため、開門条件以外で出来うる研究に専念し、開門が実施された場合には即時に対応出来るよう準備を整えている。
昨年以来、大量排水によるミクロシスチンの拡散と生物濃縮、およびそれを裏付けるミクロシスチンの派イズ時直後の動態について論文化してきたが、引き続き、有明海奥部全域に拡散するミクロシスチンおよび調整池の底生生物について執筆中である。さらに、RT-qPCRによる残留と分解の動態を把握するための準備として、昨年度でミクロシスチン合成遺伝子の定量を実施した。今夏に溶藻菌と分解酵素遺伝子の定量をおこなった後、秋期の底泥を用いて分解過程の詳細を捉えるための実験を実施する予定で準備中である。なお、開門調査が実施された場合には即時対応出来るように待機している。
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